(読書感想)『この経済政策が民主主義を救う』
最近話題の松尾匡さん著『この経済政策が民主主義を救う』を拝読。松尾さんは、安倍自民政権を、国民主権と民主主義の脅威ととらえ、野党は連合して安倍自民を上回る経済成長政策、「真っ赤に燃えるような景気拡大」を訴えて、まずは政権を奪取しろと説く。


さて、安倍自民党とくれば、イメージは、美しい日本・美しい家族の助け合い。そこに合わない人は助ける価値がなく、個人の失敗も、生まれ育ちも自己責任なのだから、金がなければひたすら貧しく慎ましく暮らせ、という曽野綾子的世界観だ。
そして、何が正しいかは政府が決めるから、国民は心配もしなくていいし、何も知らなくていい。日本が過去にやったことはすべて仕方がなかったか、酷い行為は他国のでっち上げという態度。
私はそんな安倍自民党には早く退陣してほしい。
ところが野党を見れば、前政権の民主党(現民進党)の方針ときたら、政府は金を出せないから市民は助け合って慎ましく暮らせという方針。高齢化だから医療費と年金の維持のためにどんどん税を取りますといって、市民が消費を切り詰めることを奨励する。企業は国内では儲からないので海外に出るか、国内での賃金を切り詰めて生き延びるしかない。そして貧しい人が増えては固定化し、閉塞感が蔓延する。貧しい人が増えるから税収入も減り、ますます社会保障の切り詰めに走る悪循環となる。
「それは菅や野田、岡田路線だ、鳩山と小沢の時は違った」という人は、「新しい公共」というスローガンがいつ謳われたか思い出すべきだ。NPOの代表理事である駒崎氏のブログに書かれている通り。
しかし、公共サービスが必要な全ての場所に、そんな民間が存在するものだろうか。そうではないから「公共」が必要なのだ。地域によって、必要だけれども成り立たなかったり、構想してから実現するまでに人の一生程度では足りないようなもの。
官を減らすことが美徳であるかのような、小さな政府志向は、すでに鳩山政権の時からあった。
『この経済政策が民主主義を救う』は、そんな状況は打破されなければならないと訴える。日本に、欧米では左派のスタンダードとなりつつある経済政策―社会民主主義的な政策―を前面に押し出す左派政党が出てこなければならない。そうしなければ、格差は縮小せず、社会保障は充実せず、弱者手当だけでなく国民の活力と希望を引き出す制度を備えた国家に、永遠になり損ねてしまう。
まず警告として、安倍自民党がいかに状況を利用して勢力を維持できているか、そして今後の経済状況の展開を選挙スケジュールにどのように利用するか、可能性のあるシナリオを示す。かなりありそうで怖いシナリオだ。
次に、今の経済状況がどのようか、多くの経済データを挙げて説明している。どれも経済学に明るくなくても理解できる、一般の新聞に良く載るようなグラフで、本文で分かりやすく解説されている。
それらの中には良いデータもあれば、悪化を示すものもある。1つ悪いからアベノミクスがダメだなどと考えると状況を見誤り、見誤ったまま主張していると世論からソッポを向かれ、安倍自民党の思うツボとなる。こうしたデータのどれがどう良くて、どれがどう悪いのか、きちんと把握することが重要だ。
たとえば、ベースマネーの増え方と企業の設備投資のグラフを見れば、それなりの効果は出ている。そうしたことをキチンと押さえておかなければいけない。
それから、「日本は十分豊かだ。みんな贅沢しなければいい」といった言説があるが、決してそうではないことが、いくつものデータとともに解説されている。栄養摂取量や淋病罹患率、失業率、自殺率…。高度成長期を過ごした人たちや、もともと恵まれて頭が良く品も良く厳格な人たちが想定するような、貧しくても安寧な生活などというものはない。金がある程度稼げなければ、不安定で希望もない。閉塞感に満ちている。そうしたことがデータでわかる。
そして、安保や原発政策では多くの人が与党に反対なのに、なぜか支持率は低下しない。そうした状況について、データだけでなく、前回の都知事選で宇都宮氏と田母神氏の間で迷う若者の様子をまじえながら現状を描き、警告を発している。
ではどういう経済政策を訴えるべきか。金融緩和は基本として行っておき、国債を発行して最終的には日銀が引き受ければ、世の中のお金を吸い上げずに政府が使える。そうしておいて、福祉、医療、教育、子育てに十分にあてていく。
不足していた公共サービスが充実し、国民が雇われて、賃金が払われるから総需要が回復。内需企業の業績見込みも上昇し、雇用がますます増えて賃金にも反映されるようになる。好循環が生まれる。
ここで問題なのは、世の中には国の債務増大への不安感が強いことである。しかしこれについても、少なくとも当面は心配する必要はないことの理由、将来的には状況に応じて実施できる有効な対処法も書かれている。
世界の左派について解説している章は、非常に興味深いリストとなっている。スウェーデン社会民主党、イギリス労働党党首コービン、スペイン左翼政党ポデモス、欧州労連、欧州左翼党、アメリカで社会主義者を自称する次期大統領選の民主党候補者の一人、サンダース。すべてが反緊縮で、人民のためにお金を使おうと訴えている。
経済学者ではクルーグマン、スティグリッツ、ピケティ、アマルティア・センの名前が挙がる。
安倍政権の経済政策には弱点がある。まだ主流派経済学の新古典派的政策がいくつも入り込んでいる点だ。左派の野党はそこを改善した提案を打ち出していくべきだとわかる。
新古典派とは何かも簡単に解説されており、それに対抗するケインズ経済学がかつて誤って理解されていた部分の説明や、ちゃんと解釈すれば、完全にいまの総需要刺激策になり得ることの説明もある。
これから、安倍政権の経済政策を上回る総需要刺激策を出そうという人たちが持つべき知識は、ここにある。これで完全ではないとしても(経済学は膨大な体系だ)、ほとんどの手がかりが示されている。
さて、安倍自民党とくれば、イメージは、美しい日本・美しい家族の助け合い。そこに合わない人は助ける価値がなく、個人の失敗も、生まれ育ちも自己責任なのだから、金がなければひたすら貧しく慎ましく暮らせ、という曽野綾子的世界観だ。
そして、何が正しいかは政府が決めるから、国民は心配もしなくていいし、何も知らなくていい。日本が過去にやったことはすべて仕方がなかったか、酷い行為は他国のでっち上げという態度。
私はそんな安倍自民党には早く退陣してほしい。
ところが野党を見れば、前政権の民主党(現民進党)の方針ときたら、政府は金を出せないから市民は助け合って慎ましく暮らせという方針。高齢化だから医療費と年金の維持のためにどんどん税を取りますといって、市民が消費を切り詰めることを奨励する。企業は国内では儲からないので海外に出るか、国内での賃金を切り詰めて生き延びるしかない。そして貧しい人が増えては固定化し、閉塞感が蔓延する。貧しい人が増えるから税収入も減り、ますます社会保障の切り詰めに走る悪循環となる。
「それは菅や野田、岡田路線だ、鳩山と小沢の時は違った」という人は、「新しい公共」というスローガンがいつ謳われたか思い出すべきだ。NPOの代表理事である駒崎氏のブログに書かれている通り。
公共を支える自治体や国に税として納めるか、もしくは公共を支える民間主体であるNPOに寄付として社会投資するか、を市民が主体的に選択するのです。
国や自治体等の官が全ての公共的分野を担える時代は終わりました。社会的課題は多様化し、刻一刻と進むグローバル化・情報化に、行政の意思決定のスピードでは追いつけなくなりました。小回りがきき、これまでなかった手法に挑戦する、民間で公共を担う主体が必要になってきたのです。
http://komazaki.seesaa.net/article/134977378.html
しかし、公共サービスが必要な全ての場所に、そんな民間が存在するものだろうか。そうではないから「公共」が必要なのだ。地域によって、必要だけれども成り立たなかったり、構想してから実現するまでに人の一生程度では足りないようなもの。
官を減らすことが美徳であるかのような、小さな政府志向は、すでに鳩山政権の時からあった。
『この経済政策が民主主義を救う』は、そんな状況は打破されなければならないと訴える。日本に、欧米では左派のスタンダードとなりつつある経済政策―社会民主主義的な政策―を前面に押し出す左派政党が出てこなければならない。そうしなければ、格差は縮小せず、社会保障は充実せず、弱者手当だけでなく国民の活力と希望を引き出す制度を備えた国家に、永遠になり損ねてしまう。
まず警告として、安倍自民党がいかに状況を利用して勢力を維持できているか、そして今後の経済状況の展開を選挙スケジュールにどのように利用するか、可能性のあるシナリオを示す。かなりありそうで怖いシナリオだ。
次に、今の経済状況がどのようか、多くの経済データを挙げて説明している。どれも経済学に明るくなくても理解できる、一般の新聞に良く載るようなグラフで、本文で分かりやすく解説されている。
それらの中には良いデータもあれば、悪化を示すものもある。1つ悪いからアベノミクスがダメだなどと考えると状況を見誤り、見誤ったまま主張していると世論からソッポを向かれ、安倍自民党の思うツボとなる。こうしたデータのどれがどう良くて、どれがどう悪いのか、きちんと把握することが重要だ。
たとえば、ベースマネーの増え方と企業の設備投資のグラフを見れば、それなりの効果は出ている。そうしたことをキチンと押さえておかなければいけない。
それから、「日本は十分豊かだ。みんな贅沢しなければいい」といった言説があるが、決してそうではないことが、いくつものデータとともに解説されている。栄養摂取量や淋病罹患率、失業率、自殺率…。高度成長期を過ごした人たちや、もともと恵まれて頭が良く品も良く厳格な人たちが想定するような、貧しくても安寧な生活などというものはない。金がある程度稼げなければ、不安定で希望もない。閉塞感に満ちている。そうしたことがデータでわかる。
そして、安保や原発政策では多くの人が与党に反対なのに、なぜか支持率は低下しない。そうした状況について、データだけでなく、前回の都知事選で宇都宮氏と田母神氏の間で迷う若者の様子をまじえながら現状を描き、警告を発している。
ではどういう経済政策を訴えるべきか。金融緩和は基本として行っておき、国債を発行して最終的には日銀が引き受ければ、世の中のお金を吸い上げずに政府が使える。そうしておいて、福祉、医療、教育、子育てに十分にあてていく。
不足していた公共サービスが充実し、国民が雇われて、賃金が払われるから総需要が回復。内需企業の業績見込みも上昇し、雇用がますます増えて賃金にも反映されるようになる。好循環が生まれる。
ここで問題なのは、世の中には国の債務増大への不安感が強いことである。しかしこれについても、少なくとも当面は心配する必要はないことの理由、将来的には状況に応じて実施できる有効な対処法も書かれている。
世界の左派について解説している章は、非常に興味深いリストとなっている。スウェーデン社会民主党、イギリス労働党党首コービン、スペイン左翼政党ポデモス、欧州労連、欧州左翼党、アメリカで社会主義者を自称する次期大統領選の民主党候補者の一人、サンダース。すべてが反緊縮で、人民のためにお金を使おうと訴えている。
経済学者ではクルーグマン、スティグリッツ、ピケティ、アマルティア・センの名前が挙がる。
安倍政権の経済政策には弱点がある。まだ主流派経済学の新古典派的政策がいくつも入り込んでいる点だ。左派の野党はそこを改善した提案を打ち出していくべきだとわかる。
新古典派とは何かも簡単に解説されており、それに対抗するケインズ経済学がかつて誤って理解されていた部分の説明や、ちゃんと解釈すれば、完全にいまの総需要刺激策になり得ることの説明もある。
これから、安倍政権の経済政策を上回る総需要刺激策を出そうという人たちが持つべき知識は、ここにある。これで完全ではないとしても(経済学は膨大な体系だ)、ほとんどの手がかりが示されている。
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