同一労働同一賃金の話

最近同一労働同一賃金が話題です。

日本では、年功序列の線路を(たとえ途中で転職しても)粛々と歩めた正社員組の生涯賃金に比べて、途中で列車から放り出されて戻れなかった中高年や、そもそも列車に乗り込めていない若者の生涯賃金が明らかにヤバいことになってるわけです。

生涯賃金が低ければ、国や地方に納める税も社会保険料も大して払えないわけで、国としても困ると。

そこでとにかく非正規の賃金を上げていかねばならないと。

そこまではまったく同意なんですが、そのために「同一労働同一賃金」を持ち出してくるのは、私見ではあんまりスジがよろしくない、とは思っておりました。

労働経済学者の安藤至大先生も、賃金格差を考える(上)「同一賃金比較対象難しく 職務給に限定が妥当」という記事で、同一労働同一賃金に対し悲観的な感想を述べていらっしゃいます。

しかし「年功賃金である正社員と市場で賃金が決まるパートタイム労働者では、賃金に違いが生じるのは避けられない」などと書いているのを見ると、何とも呑気というか、この労働市場のヤバさをあんまり感じていらっしゃらないのだなぁと、ため息が出てしまいました。

そもそも、労働市場は不完全ですから、いったいどういうわけで賃金が決まるのかがいまひとつわからない、というところがまず大前提なわけです。

経済学者にヒックスという偉い人がいるそうですが、労働市場の不完全性に衝撃を受けて新古典派から転向してしまったとか、サミュエルソンという偉い人は「賃金決定の理論のところにくると,どうも自信が持てなくなる」と述懐しているとかいう話もあるそうです。(萩原進『労働経済学への手引き』 http://repo.lib.hosei.ac.jp/bitstream/10114/4005/1/77-1hagiwara2.pdf

要は、「仕事が同一だと賃金は同一である」という式があんまり成り立っていない市場なんです。

それに、考えてみたらいいですよ。日本でなんで、非正規が増えたんですかね?賃金を安くしたかったからですよ。簡単な仕事が増えたから非正規が増えたんじゃなくて、先に賃金を安くしたいという願望があって、いろいろこじつけてそれ用の仕事をつくってきた。

「非正規」にしたのは賃金を安くしたかったから、です。

だからいくら、自民党の雇用問題調査会・同一労働同一賃金問題検証プロジェクトチーム合同会議で提案されてるみたく「賃金を要因分解して賃金表をつくって」とかやっても無駄です。たとえば「正社員が参加する会議に非正規は参加しない」とか「最終的に責任は取らせない」とか何とか、いろんな理由で賃金表の格差をでっちあげることができる。

つまり同一労働同一賃金というものをまじめに学問的に分析して、それが可能かどうかなんてやってたら、永遠にそんなものはできません。

とにかく非正規の賃金を上げる理屈を、どんなに整合性がなくてもくっつけて、政治的に通さなきゃいけない状況なわけですよ今は。

唯一の希望のきざしは、かつては正社員の雇用と年功序列を守るために、非正規の賃金は圧倒的に安くなければいけなかったのですが、さすがに年功序列がだいぶ薄れたところに、団塊世代の高給の社員が定年でごっそり減って、企業が払う給与が減ってきました。これから、多少は企業に余裕が出てくるんではないですかね。

そしてあとは、従業員に低賃金で長時間労働させて下手に頑張る生産性の悪い企業を、やたらに残さないことです。競争過多になって、無駄な料金競争もおこり、賃金がちっとも上がりません。どこかの虫のマークがついてる引越社さんみたいな。


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No title

なんか全体的に言っていることがずれているように思えます。

安藤氏が言っているのは日本の場合、(労働法学者の浜口氏言うところの)ジョブ型労働がないために同一労働の定義がそもそもにおいて困難だということでしょう。

あとヒックスとかサミュエルソンが持ち出した「労働市場の不完全性」の話ですが、あれは今回の「同一労働同一賃金」の話とは関係ありませんよ。

ここら辺り都合良く話をつまみ食いして適当なヨタ話を開陳される前に、まずはきちんとしたミクロ・マクロの経済学の教科書を読まれることをお勧めします

Re: No title

高田様コメントありがとうございます。

そうはいっても、「マクロ経済でこうだから」と言っていると、同一労働同一賃金によって非正規の賃金を上げることができなくなってしまいます。

どういう理屈をつけても、低所得者の賃金を上げていかないと。

それに、これまでの主流派マクロ経済学が、労働や雇用に関しては間違っていることもあると思います。
たとえば「賃金が高くなるほど労働時間を延ばす」や「高い実質賃金(または実質賃金の上昇)が失業を拡大する」など
現実にはずいぶん違うのではないでしょうか。


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