反福祉国家の思想(通俗道徳主義)

いまの市民活動家の中には、「清貧」を求める左派といったイメージを醸し出す人たちがいる。現在の日本の経済状況で、財政健全化を求め、社会保障の財源として増税を求めるような人たちのことだ。そして、増税ができなければ、政府が公共サービスを縮小するのはやむなしと考え、そのかわりに「市民活動」を活発化しようとするような人たちだ。

この人たちは経済成長への拒否感も醸し出している。もう経済成長しなくていいんだ、これ以上は資源の無駄で、地球環境に悪影響だ、というような。(実際のところ、国としての「GDP成長」が必要なのかどうかということは、たぶん、もうちょっと自分でも勉強してみて、判断しなければならないのだろうが、少なくとも、政府による雇用創出の取り組みが不要だという風には、私には到底思えないのだ。)

(※以下の節、最初に書いたものを少し修正しました)
この人たちは「年収は300万もあれば十分だ」などと言い出す。
確かに、最低賃金のフルタイムで年収300万であれば、良いだろう。しかし平均年収300万でいいということになると話が違う。税収が大幅にへり、社会保障はもっと削らざるを得なくなる。

民主党で、「第三の道」的な活動をしている議員たちも、私から見ると、そういうカテゴリに入る。

そのイメージと、ツイッターでねずみ王様がつぶやいていた、「通俗道徳主義」が重なるように思ったので、メモ。

しかし昔からそうなのだけれど、反=社会政策というか、反福祉国家の思想は、「貧乏人」は大学に来るな(幸せな老後を送るな、病気になっても治療してもらうな)ではなく、怠惰な者、贅沢をする者、キリギリスのように節約をせず、貯金しない者は・・・という発想なのだよ。

あれは基本的に「思想」の問題なのだ。困ったことに「思想」というのは、議論ではたしかに片が付かないことが多いんだ。

反ー福祉国家の思想は、基本的にはモラリズム(通俗道徳主義)で、思想としてはそれなりに筋が通っているのだが、しかし、なぜかうまくゆかない

高等教育は贅沢品なのだろう。贅沢品というのは定義上、持てる少数者のためのものである。問題はサービス産業全体が、多かれ少なかれ贅沢品だというところがあり、いまやそっちの規模が巨大だということにある。サービス産業を文字通り奉仕産業と捉える発想はつよいのだな、しかし。公務員観しかり。

しかしサービス産業は、あるいは第三次産業は、あるいはもっといえば経済というものが、本来、交換=コミュニケーションなのだ。ようするに経済発展というのは、社会学的に見れば(なぜおれが…)、コミュニケーションの量と頻度の増大なのだ。表現もそっちに合わせれば、複雑化であり、文明の洗練だ。

モラリズム(通俗道徳)は、これをぶっ壊してしまう。福祉ではなく家族で、という方向は、実質的には、どうしたってまあ自給自足経済=コミュニケーションの削減という方向性をもってしまう。家族内のコミュニケーション(介護)は増えるけれど。

で、たぶん自由主義的モラリズム(道徳主義)の最大の問題は、国民経済という枠組み、近代国家(一定の領土、国民、etc…)にそぐわないということなのだと考えている。帝国でやるか、帝国主義でやるか、どちらかでやらないと辻褄が合わない。

社会において交換=コミュニケーションの量と頻度が増えてゆくと、「付加価値」が付いちゃったり、「生産性」があがちゃったりするよね(いずれも経済学者には評判の悪い概念)。つまり成長しちゃうんじゃないかなあ。

奉仕産業従事者を、その生産物は贅沢品なので、その消費に与らないという方向性を強めると、社会全体としては交換の量は収縮してゆかざるをえんわね。

通俗道徳主義のひとは、他人に依存することは悪なので、どうしても反ー分業になるし、水平的なコミュニケーションというよりは、垂直的、支配に基づく社会構造を嗜好しちゃうよね。



なお、このイメージは、アメリカでは保守派のイメージに重なる。

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左派は本当に「脱成長」ですか?

左派、というかリベラルの立場で「脱成長」を主張している論者というのは実はほとんど目立たないのでして。
「成長は目指すべきだが、今後、高度成長のような急激な成長は見込めない。低成長の中でいかにやりくりをしていくか」という論調なら頻繁に見ます。
松尾匡氏とか萩上チキ氏、森田実氏、内田樹氏などなど…。

これには右派による、「左派は脱成長で日本を貧困の国にしようとしている」という、一種のネガキャンというか、妄想というか思い込みが強いのではないかと思うのですが。
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