内部留保を貯め込んでいるのは大企業ではなく中堅中小企業
すると、意外なことに、現金の保有率が高いのは大企業ではなく、中堅中小企業だということなのである。
11月11日付の国立国会図書館 調査と情報「企業の内部留保をめぐる議論」を見てみると、
調査対象とした全企業(金融保険業を除く)の 2013 年度の資産合計に占める現預金の割合は 11.4%である。資本金 1 億円以上の大企業と比べ、資本金 1 億円未満の中小企業における資産合計に占める現預金の割合は、著しく高い(大企業 7.5%、中小企業 17.8%)
世界 35 か国のうち日本は、総資産に占める現預金の比率が 16%と最も高くなっている。アメリカ 4.4%、イギリス 6.2%、ドイツ 5.6%、フランス 8.5%となっており、日本の比率の高さが際立っている。
この2カ所の抜粋を見る限り、大企業の保有率も低いとは言わないが、中小企業の保有率が際立っている。ほとんどそれに引っ張られているといってもよい。
みずほ総研「2014年、日本企業は溜め込んだ現預金をどうするか」(PDF)でも、同じような調査結果がグラフ化されている。バブルが終わってからで比較すると、大企業の現預金保有残高は1995年と同じで40兆円ぐらいだが、中堅中小企業となると、80兆円ぐらいだったものが、2012年頃になると100兆円である。

それともう一つみなが気にするのは、大企業では利益剰余金が年々増えているが、それを現預金で保有していないとするとどうなっているかということだろう。これに関しては、海外投資にあてている可能性はある。
ただし、企業も全ての投資に消極的だったわけではない。国内の設備投資が低迷する一方で、対外直接投資は活発化している。図 8 は民間企業部門の年間の対外直接投資の推移(フロー)である。これによると、対外直接投資は近年増加傾向にある。このことを裏付けるように、海外現地法人の数は 10 年前の 1.5倍に増えており21、製造業の海外設備投資比率も年々上昇している(図 9)。
企業の内部留保をめぐる議論
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8795835_po_0836.pdf?contentNo=1

また、大企業の場合はM&Aに対する資金源ともなるだろう。
つまり、大企業は利益剰余金を海外投資にあてたり、M&Aなどして、ある意味有効に使っている。その上、大企業正社員は給料が高いわけだから、労働者に利益を還元していないといって責められるいわれはない。ただ大企業の利益剰余金の増加が非正規の低賃金に依存しているのかどうかで、議論の方向性は変わってくるが。この辺はデータがあれば見てみたいと思う。
間違いないことは、中堅中小企業が利益を現預金の形で溜め込んでいることだ。それは、不確実性と、需要減、さらにこのところの円安に対応する中では、仕方のないことかも知れない。
バブル崩壊後20年にわたる日本企業のバランスシート運営では、 不確実性の高まりと資産デフレという、さながら「氷河期」のような状況でも生き抜くために、資産と負債を同時に圧縮する「持たない経営」が鉄則であった。同時に予備的に現預金を溜め込むことも鉄則であった。
みずほ総研「2014年、日本企業は溜め込んだ現預金をどうするか」
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/today/rt140115.pdf
少し不思議なのは、中小企業は大企業に比べると、リーマン・ショックの影響は少なかったのに、リーマン・ショック後により一層現預金を貯め込む傾向というのはどういうことなのだろうか。
話を戻すと、中小企業は人手不足に苦しみながら、賃金を上げようとはしていない。
一方、中小企業は人手不足感が著しく強い。雇用の過不足を示す雇用人員判断DI(日銀短観)をみると、小規模の企業ほど人手不足感が強くなっている。実際、小売や飲食・サービス業ではアルバイトやパートを中心に人材獲得競争が激化しているという話もある。通常、人手不足感が強いほど、企業は労働力を確保する目的で賃金を引き上げるはずであるが、現段階においてパート労働者の時給を除けば、そうした動きはほとんどみられない。人手不足下でも中小企業が賃金の引き上げになかなか積極的になれないのは、人件費の増加が収益を圧迫する要因になるためだろう。
法人企業統計を用いて、人件費の増加が企業収益に与える影響 (2013年度ベース)をみてみよう。中小企業において人件費が1%・2%・3%增加した場合、経常利益はそれぞれ▲4.8%ポイント、▲9.7% ポイント、▲14.5%ポイント押し下げられると試算される(前頁図表4)。他方、大企業のケースでは、それぞれ▲1.4%ポイント、▲2.8%ポイント、▲4.2%ポイントとなっており、人件費増加によるマイナスの影響は中小企業の方がより強く出る模様である。もちろん、人件費増加によるマイナス分をカバーできるだけの売上の増加やコストの減少を見込めれば問題にならないわけだが、これまでは円安等に伴うコスト增による収益の下押しがある中で、そうした余裕が生まれにくかったのかもしれない。中小企業庁の調査(「ここ1年の中小・小規模企業の経営状況について」(2014年11月))によれば、4 割程度の中小・小規模企業が原材料・エネルギーコストの増加により経常利益が10%以上圧迫されたと回答している。売上減少の懸念から価格転嫁がままならない企業も多く、人件費の増加には慎重なスタンスを維持している可能性が高い。
消費の回復は期待できるのか 消費停滞から脱する力ギは低所得者対策と原油安
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/jp141219.pdf
おそらく、最低賃金を上げた結果、正社員の月給も高くなったら、中小企業では倒産が増えるだろう。
共産党はそうした効果も考慮に入れているのだろうか?
たとえそうしても労働者の生活が最終的に向上するならば、中小企業の再編が起こっても仕方がないと、あからさまに主張できるのだろうか?
私はその間、政府がきちんと失業中の労働者の生活を支援し、教育の機会を与えるならば、そうなることはやぶさかではないと考えている。
しかし安倍自民党では、いや民主党ですら、失業中の労働者の生活を支援し、教育の機会を与える政策を強力に打ち出してくれるという気がしない。
財源は、不況のうちは、国債でも良いのだ。それは負担の次世代先送りなどにはならない。現世代の経済を活性化し、税収を増やすことこそ、次世代の負担をなくすことになる。それなのに、借金放漫財政批判や財政健全化ばかりに気を取られ、効果を生み国民を救う財政支出ができなくなっている。
ここが、いまの日本で、左派のデッドロックになっている。
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