アンチ・リフレ派を誤解していた理由

私は2013年初めぐらいからのにわかリフレ派だった。

その前には、原発事故にショックを受けてにわか市民活動派だった。そこには、経済成長の追求が原発事故を起こしたと言って、脱成長をめざそうという人たちがたくさんいた。

しかしそうした脱成長的なものにはどうしてもなじめなかった。自分が低所得で先行きがえらく不安だからだと思う。

するとそこにリフレという考え方があった。これなら、経済成長をしながら、再分配などの社会保障強化がしやすくなるはずだ、とすぐに思った。景気を良くし、パイを大きくしながら、再分配を強化していくというアイデアはとても良いように思えた。

リフレを支持すると、アンチリフレ派が現れた。金融緩和で破綻する、ハイパーインフレで破綻する、トリクルダウンで金持ちだけが儲かる、というのだ。

まるで経済成長が悪いと言われているように感じた。金の亡者、弱者の搾取、そうしたことでしか、経済成長は保てないのだから、成長をめざしてはならないと言われているかのようだった。しかし経済成長が悪者になる世界では、すでに持てるものは耐えていけるが、持たざるものはただより貧しくなっていくだけなのだ。

脱成長を叫ぶ人々は、「誰が見ても可哀想な弱者」のことは声高に叫ぶが、日本で平均よりだいぶ所得が少ないが、それほど可哀そうに見えない人々については、自己責任だとか、努力が足りないとかいう目で見て、なんの手も打とうとしない、そんな気がしていた。

彼らは、アベノミクスをトリクルダウンだ、弱いものいじめだ、という言葉で叩いておいて、実際的に弱者に恐ろしいダメージを与える消費税増税については仕方がないと受け入れているように見えた。

私は安倍自民政権などはみじんも支えたくないが、アベノミクスを叩いている野党というのは、実のところ安倍以上に弱者にとって敵なのだと思えた。

しかし、金融緩和によるデフレ脱却というアイデアには、いまひとつ根拠に欠ける部分もある。

それなら財政出動を組み合わせておけば、より成功率が高まるだろう。そう考えながらあらためて周りを眺めてみると、少し風景が変わって見えた。

野党すべてが脱成長だ、増税だ、痛みを分かち合え、と言っているわけではなかった。
アベノミクスを批判するが、財政出動大いに結構と考えている節のある政党もある。

私は昨日、こんな風にツイートした。

野党は金融緩和批判するばっかりじゃなくて、財政出動ぶつければ良かったのに。金融緩和じゃ効かないから財政やりますっていったらまだ良かった。インフラも大事だけど、それ以外の使い道(たとえば介護などの公共事業化)の案をいろいろ必死でひねり出しただろうか

それができていないのは、借金財政悪玉論に囚われているから。

あと借金先送りで将来世代に負担論とか、世代格差論とか。その辺をぜんぶひっくり返さないといけない。



ふと生活の党の政策を見ると、上に書いたようなことはみんな盛り込まれていて、なおかつ財政再建という言葉はまったく見られなくて、内需拡大で景気を良くしようという掛け声が大きいのだった。

    「生活の党 衆議院総選挙重点政策」より
  • 家計と景気に大きなダメージを与える消費増税は凍結します
  • 非正規労働者の正規化を拡充し、雇用の安定化と賃金引上げを推進します
  • 子育て応援券、高校無償化、最低保障年金を推進し、可処分所得を増やします
  • 給付型奨学金の創設を含め、奨学金制度を拡充し、希望する全ての人が高等教育を受けられるようにします
  • 定年延長、高齢者雇用、女性雇用、子育て後の再就職支援の制度を拡充します
  • 住宅ローン減税とともに、住宅取得にかかる税制上の優遇措置、給付措置などにより負担を軽減します

  • 地方にとって必要な次世代のための公共投資を持続的かつ適正規模で実施します


かなり、私が「こうしたら良いんじゃないか」と思う政策が入っている。
そして景気を良くするため=デフレ脱却のためにこれらの施策を行なうということは、財政再建は先送りするだけの覚悟ができているのだろう。

こういう野党もあるのに、どうして野党はすべからく脱成長派で財政緊縮派だと思ったんだろうか。思うに、彼らのアベノミクス批判のやり方にあったんではないかと思う。

彼らは単に「金融緩和では効かないから財政出動をやりましょう」といえばよかった。

アベノミクスは害だとか、ハイパーインフレだとか、金持ち優遇だ、とか言うから、経済成長否定論だろうと思ってしまった。そうではなく、景気は良くしたいがアベノミクスは効かないと言えばよかった。いやまぁ、こういうことをいうと、きっと「言ってましたよ、それ」と言われるんであろうが。

とにかくひたすら、「財政再建は後でいいんです。財政再建さえ後回しにすれば、景気が良くなるまで財政出動できるんです。そして子育て費の政府支出も、社会保障強化も、増税しないでできるんです。景気さえ良くなれば、その後で財政再建できるし、その後でしか再建はできないんです」といえばよかった。アベノミクスを丸ごと否定してしまうと、こうした論まで否定してしまうことに見える。

ただ単にこう主張してくれれば、野党や左派政党がみな経済成長否定派だとは思わずに済んだのに。







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No title

生活の党とみんなの党の残党が一緒になって、リベラルリフレ政党を立ち上げればいいのに、と妄想しております。

Re: No title

No titleさん

まったく同感です。

No title

「松尾匡氏の「方法論的個人主義」」を書いたものです。
twitterでとりあげてくださってありがとうございました。

twitterで返信すべきなんでしょうが、twitterは住民にならないと使いにくいと勝手におもっていて、それでも返答をしたくて、プロフィールからここに伺いました。

この記事にコメントするのは、僭越な言い方ですが、まるで自分が書いてんじゃというくらい、共感を感じたからです。

ただちょっと考えなければならないと思うのは、日本の経済政策の議論が緊縮財政と齟齬がない方向にいつの間に向いてしまうバイアスです。陰謀論的に聞こえるかもしれませんが、マスコミや政治家(特に政権政党)への官僚の影響力は考えなければならないように思います。このことは根強い緊縮財政主義へのバイアスとなっていると思っています。この点に関してはアベノミクスには批判的な立場ですが服部茂幸さんの『アベノミクスの終焉』に個人的にはいろいろ教えられました。

野党については、松尾さんは点数が辛いですが、共産党はかなりまともというか、傾聴に値する議論をしていると思っています。ただ、共産党のアベノミクス批判も、ご指摘の典型的な野党型のアベノミクス批判になっています。共産党あたりがまともなアベノミクス批判して、それが政策議論のベースになれば随分いいのにと思います。

ここでの場違いの私の論文、あるいは松尾疎外論や廣松理論に関しての以下のツイートは松尾さんの議論の例としてとても適切だと思います。

「これってたとえばだけど、原発の賛成反対で考えると、一人の頭の中に、原発の良さも悪さも情報が入っていて、最終的にどっちの立場を表明するかというのは外部の状況によって変わったりする。葛藤は主体間でも起こっているし、主体の内部でも起こってる、みたいなことかなぁ。 」

とても正確に読んでいただいて、うれしいです。

こういう注目に依存症のガキですので、朝からルンルンです。ちなみにtwitterの情報を教えてくださったのは論文のほうでも言及させてもらった石塚良次さんです。

松尾さんに言及しているページについては松尾さんにお伝えします。松尾さんも大変共感するのではと思います。

Re: No title

大坂さま

わざわざコメントいただき、恐縮です。
論文についてつぶやいたことが、見当違いでなくて良かったです。

記事についてのコメントの方ですが

> ただちょっと考えなければならないと思うのは、日本の経済政策の議論が緊縮
> 財政と齟齬がない方向にいつの間に向いてしまうバイアスです。

これは「日本の」というよりも「世界の」というべきであって
日本が特別遅れているという話でもないといまは思っています。
代表的なのはドイツです。
むしろ「緊縮しない方がいいんだ」という立場は、世界的にも先進的で、
あまりにも時代の先をいっていてなかなか受け入れられない
と考える方が実態に即しているように思います。

しかし、反緊縮は思想や理論としては時代の先を行っているが、結局
緊縮ではうまくいかずに反対のことを実際にはやらざるを得なかった
ということが過去、いくつかの国で起こってきたと思います。

今後必要なことは、「日本以外の世界では当たり前」というような
変なキャッチフレーズをふりかざして議論をおさえつけるような
言動ではなく、思想的学問的には
「われわれはかつてない人類社会の最先端の思想と理論を
開発し構築しつつある」という自負をもった集団であり
一方で目の前の所得格差には、政治的活動と言われることを
厭わない、きちんと政治的闘争をしかけていけるような
集団があって、両者が車の両輪となるような活動
ということではないかと妄想しております。

> 野党については、松尾さんは点数が辛いですが、共産党はかなりまともという
> か、傾聴に値する議論をしていると思っています。ただ、共産党のアベノミク
> ス批判も、ご指摘の典型的な野党型のアベノミクス批判になっています。共産
> 党あたりがまともなアベノミクス批判して、それが政策議論のベースになれば
> 随分いいのにと思います。

まぁ、共産党というと名前もアレだし、体質的にどうなのか
不安は大きいですが…

やっぱりちゃんと社会民主主義を党名に掲げる政党が
存在感を示して欲しいという強い希望があります。
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アリス

Author:アリス
資本主義の国のアリス

リベラル&ソーシャル。
最近ケインジアン。

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