『経済政策で人は死ぬか?』感想と、アイスランドに学ぶべきこと「今は国債を出してくれ」
『経済政策で人は死ぬか?』読了。訳者あとがきによれば、「これは二人の若い学者の意欲的な活動から生まれた本で、公衆衛生学の分野から行政に、さらには政策決定の場に一石を投じ、英米を中心に話題を呼んでいる」とのこと。
経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策
この本を読めば、IMFがいかにクソったれかということが良くわかる。
IMFはバブルが崩壊するなどして経済的に崩壊した国に金を貸す「最後の貸し手」だ。金を貸すのはいい。問題はその貸し方だ。IMFから金を借りるしか他に選択肢のない国に対し、緊縮財政を求める。不況のときにこそ、国は国民を救わなくてはいけないのに、IMFの条件はそれを不可能にするのだ。
IMFのせいで社会保障やインフラ投資をとことん削る羽目になった国々では、国民の多くが絶望の中で自殺に追いやられ、アルコール依存になり、性産業でのコンドームなしのセックスや、麻薬注射針の使い回しでHIVになっている。安価な予防医療が受けられないせいで、感染症が増えたり、重病になってから病院に行くためにかえって医療負担が増えている。感染症の増加は他の国にとっても脅威となる。
民間投資が徹底的に控えられているような不況の中で国による公共事業もなくなったら、国民の失業率は高まり、貧困のために内需は激減し、さらに仕事がなくなる。これでは経済回復などしようがない。
ところで世界のIMFがこんなものなのだから、日本のリベラルサヨクが「財政再建ガー、国債破綻リスクガー」と言うとしても、別にそれは日本のサヨクが他の国の人々に比べて特別に経済無知なわけではない。経済学的な教養のある人からない人まで含めて、世界の半分がそんなものだ、と思った方が良い。
話を戻せば、アジア危機後のタイでも、ギリシャ危機後のギリシャでも、IMFは多くの人々を殺してきたと言える。
ソ連崩壊後の民営化プロセスでも、IMFは急速な民営化を主張した。当時それが良いと主張する経済学者が何人もいた。ソ連の人々は短期的な痛みに耐え、長期的な果実を受け取れというわけだ。ところがいつまでたっても痛みは消えなかった。上から下まですべてがソ連の体制を前提にしてつくられていた生産プロセスを、民営化に添ったものにするには、本当はもっと時間をかけるべきだったのだ。痛みに耐え切れず、何百万人もの人々が絶望の中で死んでいった。
スティグリッツはさすがで、資本主義は一夜でできるものではないと、斬新的民営化を強く主張したという。時間かけて法や規制を整備し自然に市場が育つようにすべきだと。
ミルトン・フリードマンは後年、ロシアを急速に民営化させたことについて「あれは間違いだった。スティグリッツの方が正しかった」と語ったそうだ。
IMFはアジア通貨危機でもまたやった。タイに金を貸し、緊縮政策を取らせた。貧困は悪化し、農村の娘たちは身を売り、HIVが蔓延。結局それは国の活力を奪い回復を遅らせてしまう。そんな国に、そんな時期に居合わせた人々は不幸だ。
IMFはギリシャ危機でもまたやった。金を貸した上で緊縮させる。不況と緊縮政策のせいでアテネではHIV感染が拡大、ホームレスが急増、自殺率上昇。それなのにさらに医療費を削減していった。
そこまでやっても経済は回復しない。失業者と貧困ばかりで国内には内需がない。借りた金は海外への返済に消える。本当にこれが、IMFの望む姿なんだろうか?
IMFは国を潰して回ってる。何度も間違い、その間違いを後で認めるのにまた間違いをおかす。
そんな中、ある国は奇跡のような展開をたどった。その国とはアイスランドである。
リーマンショック後のアイスランドは、IMFから融資を受けざるを得なかったが、2010年、海外債権者への返済に関する法案を大統領が拒否、国民投票に委ね、国民投票で否決された。
アイスランドは医療と社会福祉費を減らさなかった。
自殺は増えず、死亡率も悪化せず、現在、経済も回復している。
アイスランドの大統領が、なぜ海外債権者への返済をIMFのプレッシャーを跳ね除けて拒否できたか。国民の抗議デモが効いたのだという。ある議員はこう言った。「抗議の声ははっきり届いています。国民が変化を求めていることはわかっています」
IMFは事後評価レポートでこのように書いている。
アイスランドから学べることがある。日本の国民も、こんな不況時のさらなる増税(緊縮)にははっきりNoと言えば良い。そして必要な社会保障費は、増税を延期している間でも、国に出させなければならない。国は国民が納得するならそれができる。どんな政権であっても、国民がしっかり言えばいいのだ。
日本でいま、子育て費や介護費、生活保護費が不足していたり、医療費削減をさせてはならないと思うなら、「誰か経済学者が、不況時に国債発行でまかなっても大丈夫だと保証してくれ」だとか、「あんたがたが政府を説得して国債を発行させてみれば?」だとか、国民どうしでお互いにそんな風にいう必要はないのだ。
われわれは一斉に政府の方を向いて「今は国債を出してくれ」と声を揃えれば良いのである。
経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策
この本を読めば、IMFがいかにクソったれかということが良くわかる。
IMFはバブルが崩壊するなどして経済的に崩壊した国に金を貸す「最後の貸し手」だ。金を貸すのはいい。問題はその貸し方だ。IMFから金を借りるしか他に選択肢のない国に対し、緊縮財政を求める。不況のときにこそ、国は国民を救わなくてはいけないのに、IMFの条件はそれを不可能にするのだ。
IMFのせいで社会保障やインフラ投資をとことん削る羽目になった国々では、国民の多くが絶望の中で自殺に追いやられ、アルコール依存になり、性産業でのコンドームなしのセックスや、麻薬注射針の使い回しでHIVになっている。安価な予防医療が受けられないせいで、感染症が増えたり、重病になってから病院に行くためにかえって医療負担が増えている。感染症の増加は他の国にとっても脅威となる。
民間投資が徹底的に控えられているような不況の中で国による公共事業もなくなったら、国民の失業率は高まり、貧困のために内需は激減し、さらに仕事がなくなる。これでは経済回復などしようがない。
ところで世界のIMFがこんなものなのだから、日本のリベラルサヨクが「財政再建ガー、国債破綻リスクガー」と言うとしても、別にそれは日本のサヨクが他の国の人々に比べて特別に経済無知なわけではない。経済学的な教養のある人からない人まで含めて、世界の半分がそんなものだ、と思った方が良い。
話を戻せば、アジア危機後のタイでも、ギリシャ危機後のギリシャでも、IMFは多くの人々を殺してきたと言える。
ソ連崩壊後の民営化プロセスでも、IMFは急速な民営化を主張した。当時それが良いと主張する経済学者が何人もいた。ソ連の人々は短期的な痛みに耐え、長期的な果実を受け取れというわけだ。ところがいつまでたっても痛みは消えなかった。上から下まですべてがソ連の体制を前提にしてつくられていた生産プロセスを、民営化に添ったものにするには、本当はもっと時間をかけるべきだったのだ。痛みに耐え切れず、何百万人もの人々が絶望の中で死んでいった。
スティグリッツはさすがで、資本主義は一夜でできるものではないと、斬新的民営化を強く主張したという。時間かけて法や規制を整備し自然に市場が育つようにすべきだと。
ミルトン・フリードマンは後年、ロシアを急速に民営化させたことについて「あれは間違いだった。スティグリッツの方が正しかった」と語ったそうだ。
IMFはアジア通貨危機でもまたやった。タイに金を貸し、緊縮政策を取らせた。貧困は悪化し、農村の娘たちは身を売り、HIVが蔓延。結局それは国の活力を奪い回復を遅らせてしまう。そんな国に、そんな時期に居合わせた人々は不幸だ。
IMFはギリシャ危機でもまたやった。金を貸した上で緊縮させる。不況と緊縮政策のせいでアテネではHIV感染が拡大、ホームレスが急増、自殺率上昇。それなのにさらに医療費を削減していった。
そこまでやっても経済は回復しない。失業者と貧困ばかりで国内には内需がない。借りた金は海外への返済に消える。本当にこれが、IMFの望む姿なんだろうか?
IMFは国を潰して回ってる。何度も間違い、その間違いを後で認めるのにまた間違いをおかす。
そんな中、ある国は奇跡のような展開をたどった。その国とはアイスランドである。
リーマンショック後のアイスランドは、IMFから融資を受けざるを得なかったが、2010年、海外債権者への返済に関する法案を大統領が拒否、国民投票に委ね、国民投票で否決された。
アイスランドは医療と社会福祉費を減らさなかった。
自殺は増えず、死亡率も悪化せず、現在、経済も回復している。
アイスランドの大統領が、なぜ海外債権者への返済をIMFのプレッシャーを跳ね除けて拒否できたか。国民の抗議デモが効いたのだという。ある議員はこう言った。「抗議の声ははっきり届いています。国民が変化を求めていることはわかっています」
IMFは事後評価レポートでこのように書いている。
アイスランド政府は危機後も福祉国家としての根幹を守るという目標を掲げ、そのために福祉を堅持した…まず歳出削減においては福祉を損なわないように配慮し、また歳入増加においては富裕層への増税を柱とした。
アイスランドから学べることがある。日本の国民も、こんな不況時のさらなる増税(緊縮)にははっきりNoと言えば良い。そして必要な社会保障費は、増税を延期している間でも、国に出させなければならない。国は国民が納得するならそれができる。どんな政権であっても、国民がしっかり言えばいいのだ。
日本でいま、子育て費や介護費、生活保護費が不足していたり、医療費削減をさせてはならないと思うなら、「誰か経済学者が、不況時に国債発行でまかなっても大丈夫だと保証してくれ」だとか、「あんたがたが政府を説得して国債を発行させてみれば?」だとか、国民どうしでお互いにそんな風にいう必要はないのだ。
われわれは一斉に政府の方を向いて「今は国債を出してくれ」と声を揃えれば良いのである。
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