雨宮さんの「反富裕」スローガンは効果があるのか
所得格差の小さい国、日本
日本の所得格差は比較的小さいと言われている。
所得の指標の取り方はいろいろあるが、たとえば下のグラフを見ると、先進国の中では小さい方に属している。

出典:社会実情データ図録
※最近、ジニ係数が上昇し、所得格差が拡がりつつあるように見えるのは、高齢化により定年退職した人の割合が多くなっているからである。
また、法人税は外国に比べて高く設定されており、超富裕層への課税も、同様に高めに設定されている。
参考:個人所得課税の実効税率の国際比較(夫婦子2人(専業主婦)の給与所得者)
※財務省サイトより

この図は、「子どもが2人いる夫婦で、夫と専業主婦の家庭」の所得課税を比較したものだが、年収5000万円の手前位からは、イギリスについで2番目に高い税率となっている。日本は他国よりも平等意識が強く、それが税制に表れていると言えるかもしれない。そもそも高額所得者が少ないので、どのみち超富裕層から徴収できる税金の総額はそう大きくはないだろう。
中流への課税が少ない国、日本
もう一つ気が付くことは、年収2000万以下の家庭では、税率がどの国よりも低いことだ。
これには問題がある。
なぜなら、バブルが崩壊してデフレが続いた20年間に、日本では非正規労働者の割合が増え、低所得者層と中所得者層の間の乖離が大きくなってしまった。
他の国では、中所得者層からしっかり税金をとって、低所得者層に再分配しているのに、日本はそこの再分配が行なわれていない。
結果として、日本は、低所得者層への給付が非常に少ない国となっている。
貧困運動をしている方々は、よく注意すべきではないかと思う。
金持ちから金を取れ、法人から金を取れ、とスローガンをかかげたとしても、もうすでに日本は超大金持ちと法人からは他国よりもたくさん金を取っている。
事実をありのままに見れば、もう少し、中流層が負担することを考えるべきだろう。
経済成長による全体の底上げには頼れるか?
もう一つの可能性は、20年間のデフレをせっかく脱却しようというところで、経済成長の効果で、底上げを期待できるかも知れない。
ここで面白いデータをご紹介。(↓のリンクをクリック)
Income Distribution 1970-2000
最初、「World」にだけチェックが入っていると思うので、これは外して、「Japan」「USA」にチェックを入れて、プレイボタンを押してみると、日本の所得が、低所得者側は底上げされながら移動し、高所得者側は伸びたり縮んだりするのがわかる。USAは比較にちょうどよいので一緒にチェックしてもらったが、別に中国を選んだり、ブラジルを選んで見てもいい。
これはあくまで参考ではあるが、所得の底上げのイメージはかなりつかみやすいと思う。
低所得者側の底上げは、デフレに入った後、止まっているはずだが、それをふたたび引き起こすなら、たとえ高所得者側がもっと伸びて、格差が拡がっても、気にすることはなく、中間層の負担もこのままでもいい、という可能性があるのではないか。
もうしばらく様子を見てもいいかもしれない。特に中間層への増税は、心理的萎縮をもたらして、せっかくのデフレ脱却を台無しにする心配がある。
しかし、現実にいま、たとえば子どもの貧困が、再分配によって救済されない状況が存在するのだから、もう少し中間層が、所得税において負担をしてもいいのではないか、とも考えられる。
その可能性を、考え始めるべきだろう。
スローガンは「反富裕」ではないはずだ
こうしたことを考えれば、雨宮処凛氏は「反富裕」を唱えている場合ではない。
超富裕層をターゲットにしてもほとんど意味がない。
かといって、中流を敵に回すということでもない。
敵に回せば、足の引っ張り合いということにもなりかねないが、本当にやりたいことは中流の果実を下流とシェアすることである。
中流の人は、いつか万が一、不運に遭って自分が低所得者になったときに、きちんと保障してもらえる社会の方が、安心して暮らせるだろう。
そして、低所得者と中所得者の格差があまり大きいと、分断が起き、片方の恨みがつのったり、社会情勢が不安になるだろう。そんな社会で、中流の人も暮らしたくはないはずだ。そのためには、再分配に日本よりも成功している欧州を参考にしてもいいのではないか。
幸いいま日本は、デフレから脱却しようとしている。リフレになり賃金が上がる、もしくは、労働分配率が下がって、結果として労働者が長時間労働をしなくてもよい雰囲気になっていく、その中では、中流への課税はより心理的な負担感が軽い可能性がある。
したがってリフレの継続も重要である。
これらを考えるならば、反貧困運動の人たちは、しっかりした経済成長と、雇用の増加と、そして中流層への所得課税の強化というところを訴えていくべきだろう。
もう一つ言えば、配偶者控除の廃止を非難している場合でもない。
女性の社会進出を促進などといったたわけた理由(※)など考慮に値しないが、公平な課税制度を考えれば、配偶者控除を廃止し、低所得者や子育て世帯への給付へと切り替えるべきだろう。
(※補足)配偶者控除を廃止・圧縮すれば女性の活用が進む、とされているが、これに対してはたとえば以下のような反論があり、わたしも同感である。
(追記2)
このエントリは「KYの雑記ブログ」の中にある「再分配のための基礎的指標」に着想を得て書かれています。そちらもどうぞご参照ください。
日本の所得格差は比較的小さいと言われている。
所得の指標の取り方はいろいろあるが、たとえば下のグラフを見ると、先進国の中では小さい方に属している。

出典:社会実情データ図録
※最近、ジニ係数が上昇し、所得格差が拡がりつつあるように見えるのは、高齢化により定年退職した人の割合が多くなっているからである。
また、法人税は外国に比べて高く設定されており、超富裕層への課税も、同様に高めに設定されている。
参考:個人所得課税の実効税率の国際比較(夫婦子2人(専業主婦)の給与所得者)
※財務省サイトより

この図は、「子どもが2人いる夫婦で、夫と専業主婦の家庭」の所得課税を比較したものだが、年収5000万円の手前位からは、イギリスについで2番目に高い税率となっている。日本は他国よりも平等意識が強く、それが税制に表れていると言えるかもしれない。そもそも高額所得者が少ないので、どのみち超富裕層から徴収できる税金の総額はそう大きくはないだろう。
中流への課税が少ない国、日本
もう一つ気が付くことは、年収2000万以下の家庭では、税率がどの国よりも低いことだ。
これには問題がある。
なぜなら、バブルが崩壊してデフレが続いた20年間に、日本では非正規労働者の割合が増え、低所得者層と中所得者層の間の乖離が大きくなってしまった。
他の国では、中所得者層からしっかり税金をとって、低所得者層に再分配しているのに、日本はそこの再分配が行なわれていない。
結果として、日本は、低所得者層への給付が非常に少ない国となっている。
貧困運動をしている方々は、よく注意すべきではないかと思う。
金持ちから金を取れ、法人から金を取れ、とスローガンをかかげたとしても、もうすでに日本は超大金持ちと法人からは他国よりもたくさん金を取っている。
事実をありのままに見れば、もう少し、中流層が負担することを考えるべきだろう。
経済成長による全体の底上げには頼れるか?
もう一つの可能性は、20年間のデフレをせっかく脱却しようというところで、経済成長の効果で、底上げを期待できるかも知れない。
ここで面白いデータをご紹介。(↓のリンクをクリック)
Income Distribution 1970-2000
最初、「World」にだけチェックが入っていると思うので、これは外して、「Japan」「USA」にチェックを入れて、プレイボタンを押してみると、日本の所得が、低所得者側は底上げされながら移動し、高所得者側は伸びたり縮んだりするのがわかる。USAは比較にちょうどよいので一緒にチェックしてもらったが、別に中国を選んだり、ブラジルを選んで見てもいい。
これはあくまで参考ではあるが、所得の底上げのイメージはかなりつかみやすいと思う。
低所得者側の底上げは、デフレに入った後、止まっているはずだが、それをふたたび引き起こすなら、たとえ高所得者側がもっと伸びて、格差が拡がっても、気にすることはなく、中間層の負担もこのままでもいい、という可能性があるのではないか。
もうしばらく様子を見てもいいかもしれない。特に中間層への増税は、心理的萎縮をもたらして、せっかくのデフレ脱却を台無しにする心配がある。
しかし、現実にいま、たとえば子どもの貧困が、再分配によって救済されない状況が存在するのだから、もう少し中間層が、所得税において負担をしてもいいのではないか、とも考えられる。
その可能性を、考え始めるべきだろう。
スローガンは「反富裕」ではないはずだ
こうしたことを考えれば、雨宮処凛氏は「反富裕」を唱えている場合ではない。
超富裕層をターゲットにしてもほとんど意味がない。
かといって、中流を敵に回すということでもない。
敵に回せば、足の引っ張り合いということにもなりかねないが、本当にやりたいことは中流の果実を下流とシェアすることである。
中流の人は、いつか万が一、不運に遭って自分が低所得者になったときに、きちんと保障してもらえる社会の方が、安心して暮らせるだろう。
そして、低所得者と中所得者の格差があまり大きいと、分断が起き、片方の恨みがつのったり、社会情勢が不安になるだろう。そんな社会で、中流の人も暮らしたくはないはずだ。そのためには、再分配に日本よりも成功している欧州を参考にしてもいいのではないか。
幸いいま日本は、デフレから脱却しようとしている。リフレになり賃金が上がる、もしくは、労働分配率が下がって、結果として労働者が長時間労働をしなくてもよい雰囲気になっていく、その中では、中流への課税はより心理的な負担感が軽い可能性がある。
したがってリフレの継続も重要である。
これらを考えるならば、反貧困運動の人たちは、しっかりした経済成長と、雇用の増加と、そして中流層への所得課税の強化というところを訴えていくべきだろう。
もう一つ言えば、配偶者控除の廃止を非難している場合でもない。
女性の社会進出を促進などといったたわけた理由(※)など考慮に値しないが、公平な課税制度を考えれば、配偶者控除を廃止し、低所得者や子育て世帯への給付へと切り替えるべきだろう。
(※補足)配偶者控除を廃止・圧縮すれば女性の活用が進む、とされているが、これに対してはたとえば以下のような反論があり、わたしも同感である。
- 話はそんなに単純ではあるまい。女性の社会進出を阻んでいる大きな要因は、保育所の待機児童や介護施設の定員不足に代表される「子どもを預けられず、介護も女性任せ」で、とても安心して働きには出られない社会構造にある(東京新聞より)
(追記2)
このエントリは「KYの雑記ブログ」の中にある「再分配のための基礎的指標」に着想を得て書かれています。そちらもどうぞご参照ください。
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