安倍政権と雇用と賃金、アンチ安倍勢力と雇用と賃金

最近、「労働分配率の低下が問題」というフレーズを見かけ、調べてみると、労働分配率にはデータの取り方でいくつものグラフがあることがわかりました。

たとえば、「労働分配率の低下を止められるか」(PDF)と題されたみずほ総研のレポートでは、OECDのこんなグラフが紹介されています。
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一方で、「賃上げと内部留保を巡る混乱―賃上げはストックではなくフローから」(PDF)と題された日本リサーチ総研のレポートでは、こんなグラフが。
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どっちのグラフを見ながら考えるかで、ものの見方が全然変わってしまいます。

いくつかグーグル検索した中でもっとも興味を惹かれたのは野田正彦・阿部正浩「労働分配率、賃金低下」(PDF)というレポートです。

労働分配率の測定については…複数の方法がある。そして、それぞれの測定法で計測された労働分配率の変動はそれぞれに異なっている面がある。ある測定方法では分配率が大きく変動しているように見えるが、別の測定方法ではあまり変動していないように見える。したがって、「適切な」測定を行わなければ、実証的には、「適切な」労働分配率の水準を見出すことは困難であり、「分配の水準」の議論をむやみに混乱させることになってしまう。


まさにまさに、今まさに、「むやみに混乱」しているように見えますよ。

さてこのレポートでは、分析の結果、次のようなまとめがされています。

そこで本稿では、上場企業のパネルデータを用いて、近年になって賃金の上昇を阻害してきた要因について実証分析を行った。われわれの結果は、佐々木・米澤[2000]が見出している労働分配率に対するコーポレート・ガバナンスの影響と整合的である。すなわち、金融機関と密接な関係をもつ旧来型の日本型ガバナンスがなされている企業では賃金が相対的に高く、逆に、外国人株主の影響が強い企業ほど、賃金が低くなることを示している。


その他、以前は金融機関による持ち株が賃金に対してプラスだったが、1997年の危機以降は持ち合い解消がされて効果がなくなったこと、株式持ち合いも同様に、以前は賃金に対してプラスだったが今では効果が限定されていること、相場の上昇が賃金を上昇させることなどが述べられています。

少し興味深いのは、成果主義の導入と賃金との関連は必ずしも見られなかったことです。また、賃金カットにいち早く手をつけた企業が、その後収益性が改善して、従業員の賃金上昇につながったことが、データとしては見られるということです。

以上を踏まえた上で、安倍政権の国際展開戦略「積極的な世界市場展開と、対内直接投資拡大等を通じ、世界のヒト、モノ、お金を日本に惹きつけ、世界の経済成長を取り込みます」を見ると、一般の労働者にとっては手放しで喜べない戦略だと考えられます。

海外からの投資促進によって、国内企業の外国人株主が増えるなら、雇用者の賃金は下がるだろう、と予想されます。

それに、安倍政権は雇用流動化をうたっています。新たな成長戦略では、「雇用維持型から労働移動支援型への転換」と言っています。解雇自由化を促進するなら、雇用者の立場は弱くなるということが予想されます。

また、パソナの会長竹中平蔵氏が、産業競争力会議で発言力を持っているのも気になります。景気回復局面で、企業は人材が必要になりますが、消費税増税によって経営が圧迫される企業では、人件費にあたらず税額控除の対象になる派遣社員の割合はますます増えることになるでしょう。こうした派遣市場の拡大は、竹中氏の利益となり、ますます発言力を増します。そして一般の労働者の暮らしはなかなか良くならないということになります。

その一方、企業活動が活発化し、雇用が増える効果のある金融緩和政策(アベノミクスの第一の矢)の導入では、少なくとも雇用者を増やす効果はあるでしょう。経済が停滞し、テクノロジーが発達した社会では、国家が貨幣を供給することで、雇用を増やすことが望ましい政策です。

マイナス、マイナス、プラス、といった様相を呈する安倍政権であります。

しかし共産党やら社民党を見るともっと悲惨です。

政府が金融政策に理解がないなら、企業の投資活動は活発になりません。設備投資がなされなければ、雇用は増えません。企業が収益を見込めないならば、賃金は上がらないでしょう。たとえ外国人投資家が増えなくても、解雇自由化が促進されなくても、結局、賃金は上がらないでしょう。

マイナス、マイナス、マイナスです。

あり得ないことではありますが、後者が政権についたら、経済成長が蔑視され、貧しい人々の暮らしはまったく改善することができず、なけなしの資源をゼロサム的に奪い合う社会が出現してしまいます。これでは、いくら憲法の理念を説いても、人権を主張しても、人々はそういったことを顧みる余裕がなくなります。

わたしは、一般労働者や低所得者の健康で文化的な生活の保障を重視しながら、経済成長をも促進する政党を望みます。経済成長こそが、社会福祉の原資なのです。

これから日本に現れるべきは、国家が経済に与えるマクロ効果を理解し積極的な金融政策を主張しつつ、憲法や人権の理念を理解し教育を重視する政党です。現在の日本に、こうした政党は、ただの一つも存在していません。数年以内に登場することを切に望みます。
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