左傾化するアメリカ

日本では、10月初めにも消費税増税するかどうか決まるということで、騒がしくなっている。増税は、もちろんするのだ―いずれ、何らかの形式で。しかし、今ではないはずだ。景気がようやく上向きかけたところだ。まだ安定した成長軌道に乗らないうちに、給料も上がらないうちに、増税をすれば、消費が冷え込み、景気はまた水面下に沈んでしまうだろう。増税も虚しく税収は低下し、社会保障が厳しくなる。

官僚に押されて、どうしても増税ということになった場合には、国債の発行でしのぐしかないだろう。財政再建は先になるが、人々の貧困と格差を増やして社会を不安定にするよりは、早く安定軌道に乗せるために仕方があるまい。

前置きが長くなってしまった。今日書きたかったのはアメリカの左傾化についてだ。

11月5日に、ニューヨーク市長選がある。12年続いたブルームバーグ市政が、任期満了で終わる。次は誰か。民主党候補は、ビル・デブラシオ市政監督官で、最近の世論調査では、対立候補の共和党ジョー・ロタを65%対22%と、大きく引き離している。

デブラシオ氏はリベラル派で、病院閉鎖の回避や黒人や中南米人を狙いうちにした警察の捜査手法に制限を加えるなど、富裕層と貧困層という「市の両極」に向き合うと公約している。
ロイター:米NY市長選、デブラシオ民主党候補がリード=世論調査


デブラシオ氏は高所得層に対する増税を求める民主党リベラル派で、富裕層と貧困層の格差が拡大しているとして「二都物語(ディケンズの小説のタイトルのもじり)」だとしばしば表現してきた。

これに対し、ブルームバーグ市長のスポークスマンは(略)「ニューヨーク市民にとって重要なのは以下の数字だ。史上最低の犯罪、史上最高の大学卒業率、記録的な雇用、過去最高の寿命、そして60年以上で初めて市への流入人口が流出人口を上回っていることだ。それは現市長のリーダーシップの下でニューヨークの人々が感じている生活への強力な追認だ」としている。
ウォールストリートジャーナル:変化求めるNY市民―市長選世論調査で民主党デブラシオ候補がリード


このスポークスマンの口上は、前のエントリでご紹介した、著名経済学者タイラー・コーエンの言葉を彷彿とさせる…。
まぁ、それはともかく。WSJからの引用を続ける。

だが世論調査によると、次期市長はブルームバーグ氏の政策を継続すべきだと回答した登録有権者はわずか4分の1にとどまった。一方、「市を異なった方向に向けたい」との回答は68%に達した。

また、ニューヨーク市は正しい方向に向かっていると回答した有権者の比率は減少。2012年11月の調査では61%が正しい方向だと回答していたが、今回の調査では46%にとどまっており、悪い方向に向かっているとの回答は43%となった。

それでも、過去20年間で状況は良くなったとの回答は明確に過半数を上回った。


暮らしは良くなってきているというのに、今後は変わらなければならないという、この世論は何だろうか。

手がかりはおそらく、この記事にある。The Rise of the New New Left(新・新左派の台頭)

2000年を迎える頃に、学校を卒業し就職する年頃になったアメリカの若者たちは、長引く不況と拡大する格差の中で、より社会主義的な政策を求める傾向が強くなっている。小さい政府ではなく、大きな政府を求めているというのだ。そして、もう一つの特徴として、彼らは人種や民族の多様性を受け入れ、性的マイノリティに対しても受容的であるという。つまり、よりリベラルになっている。

2011年、ウォールストリートで、オキュパイ運動が起こった。その時の参加者は、若く、高学歴で、奨学金の負債を抱え、過去5年間に失職や解雇の経験があった。

オキュパイ運動による公園の占拠は、ほどなくして解除されたが、その運動のミームは広まり、確実に人々の考え方を変えてきている。

アメリカで最も裕福な都市ニューヨークで、人々が大きな政府と、より積極的な再分配と、格差の縮小を求める。
そんな都市の空気が、オキュパイ運動のミームが、ビル・デブラシオの市政を求めているのだろう。

レーガンからクリントン、そしてオバマまで、この30年間、アメリカは小さな政府を良しとしてきた。そのアメリカが、巨大な資本主義の体で、より社会主義的な国家へと向きを変えようとしている。

また、同時にリベラルへの傾向が強まっている。

昨日、東京でも人種差別撤廃を訴える「東京大行進」があった。日本でも、新しいリベラルの空気が生まれつつある。単に反戦や九条護憲を叫ぶだけでない(それはそれで重要だけれども)、まったく語義通りのリベラルだ。民族や人種、個人個人の差異を認め、共存を志向するリベラルである。

インターネットで、情報が瞬時に世界中に伝わる時代、社会が向く方向も同期しやすくなっているかもしれない。

日本と同じぐらい小さな政府であり、世界でもっとも新自由主義的である国、リベラルと保守が長く綱引きをしているアメリカの、ニューヨーク市長選に注目したい。
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