日銀から「主要銀行貸出動向アンケート調査」発表
主要銀行貸出動向アンケート調査一覧
まず、「主体別資金需要判断」を見ると、企業向けの資金需要は、バブル崩壊とリーマンショック後に激減しており、企業がこの間、お金を借りずに返していたであろうことがわかる。リーマンショック後は、個人向けの資金需要も落ち込んでいて、唯一、地方公共団体向けの資金需要だけが健闘していた。

しかしリーマンショック時、および2014年の消費税増税直後を除き、個人向けの資金需要は常にプラス圏を推移している。
個人向け資金需要を、住宅ローンと消費者ローンに分けたものが下の図である。2005年前後、アメリカがサブプライムバブルだったとき、日本でも住宅ローン需要が堅調だったことがわかる。

一方で、2000年~2012年まで、消費者ローンの需要はずっと低調である。2012年になってようやくはっきりとプラス圏に移動した。2014年4月の消費税増税後、住宅ローンの需要は芳しくないが、消費者ローンの需要はむしろ堅調となっている。
物価上昇のわりに賃金が上がらないので、みな、借金をしているのだろうか。
アンケートは「資金需要が増加した要因」も聞いている。回答数が少ないので何とも言い難いが、消費者ローンの要因を見ると、一位は「個人消費の拡大」であり、次点で「貸出金利の低下」となっている。

家計は苦しくなっているのか、それとも消費活動が活発になっているのか、判断しかねるところだが、住宅ローンばかり需要が大きくて、消費者ローンが非常に低調だった2002年~2005年と比べると、現在の方が、消費活動は活発であるように思われる。
いまの日本に「消費増税・投資減税」は不適切
オピニオン:消費増税・投資減税はなぜ必要か=ジョルゲンソン教授
この人はハーバード大の偉い人だそうなのだが、日本に対する意見は、どうも昔から常に「改革」「規制緩和」「民営化」であるようだ。もちろんTPP大賛成である。
「日本が今、取り組むべきことは、低生産性産業に眠る成長のポテンシャルを見出すこと」「重要なことは、効率性向上を目指して「働き方改革(Working Style Reform)」を進めること」「生産性革命のためには税負担の投資から消費へのシフトが有効だ」といっている。
日本の生産性が低いのは、物やサービスの値段が低いからであって、一定時間にどれだけたくさんのサービスを提供できたかといったような、効率性とは何の関係もない。それになぜ、法人税減税して消費税増税すると、生産性が上がるのだろう。
金持ちに資本をより多く集めれば、より多く生産が行われるみたいな、供給側を重視する考え方なのだろうか。
むしろ、いま世界で起こっていることは、貧乏人から金を削りすぎてしまい(もしくは低所得者に対する公的サービスが不足していて)、大勢の人が買いたいものが買えず(需要が低下)、モノやサービスが売れそうにないので、企業が設備投資しなくなっているという、需要側の問題である。モノやサービスが売れないから、値段も上がらない。値段が上がらないから「生産性」の数値が上昇しない。
ジョルゲンソン氏はすでに時代遅れの考え方をしているように思われる。
ひょっとすると、アメリカの企業が、日本の金融・保険、電力、不動産にどんどん入れるようにして、金を儲けさせたくて、それに都合の良いことしかいっていないのではないか、とか勘ぐりたくなる。
(過去の発言)
「日本経済の生産性引き上げと財政改革は不可分」(2015-07-27)
日本経済の「3つの大きな命題」=デール・ジョルゲンソン教授(2012-03-01)
保守主義者の国家債務恐怖症
米国の債務13.9兆ドル(約1500兆円)を、米国民一人頭で割るとその金額になるという。
この記事に、何人もの社会民主主義的な考え方をする人々が顔をしかめている。
やはりアメリカのオンラインメディア「Slate」で、ジョーダン・ワイズマンという人が反論記事を書いている。いま、アメリカ国債の利子率は20年間で最低で、いっこうに上がる気配が見られないというのに、国の支出を絞ったら、長期的経済成長が止まってしまうことを心配している。必要なインフラ投資や、機能的な医療制度を持続可能にするための投資などは、国の長期的成長をもたらす。経済成長が早まれば、経済に占める債務の割合も小さくなっていくのに、いま無理をして経済を委縮させたら、返せる債務も返せなくなってしまう。
「債務を返済する」とは、世に出回っているお金を消滅させることでもあるのだが、何の苦もなく何十年も借り続けていられるものを、なぜ、急いで返して(その分のお金を世の中から消滅させて)、国民の暮らしを貧しくしなければいけないのかがちっともわからないわけである。
タイム誌の記事の著者はジェームズ・グラントといって、ワイズマンによれば「蝶ネクタイをするような連中」で、Wikipediaによれば、元共和党の政治家ロン・ポールが前FRB議長バーナンキの後任としてこの男を推していたそうである。
もちろん、ある日突然、大多数の投資家が、「この国はおしまいだ」と本気で考えて、全部の国債投資を引き揚げようとしたら、国家債務は問題となる。もちろん、ギリシャのような自国通貨をコントロールできない国にとっては重大な問題である。ところが、米国は自国通貨を発行することができる。ドルが不足することは決してないのだ。唯一心配なのは、ドルを刷り過ぎて過度のインフレを引き起こすことだろう。国の債務は無価値になり、国債市場が機能しなくなってしまう。
グラントはそれを心配しているようだ。彼も14兆ドルの債務を一度に返さなければいけないと言っているわけではないようだが、なぜか「いつかわからないが」財政が破たんするという。
またグラントは、税の定率化と、巨大な支出削減を主張しているとのことである。彼の債務恐怖は一種の口実じゃないのかと、ワイズマンは疑っている。頑迷なアメリカの保守主義者が政府に対して持つ嗜好―小さな政府、減税と支出削減―を推進するための、口実にしているだけではないのか。
さて、日本を振り返ってみれば、安倍自民党は「伝統」回帰(江戸しぐさ的伝統だが)を強めており、右傾化、保守化を進めようとしている。その一方、労組の腰が引けてている賃上げについて、もっと賃金を上げるよう口を出したり、財政出動をアピールして、あたかもアメリカ的社会民主主義風のポーズを取っている。
実際には安倍政権は、財政緊縮的であることに注意してほしい。社民的な政策は金融緩和以外は口ばかり。2014年に増税を実施してしまい、その後も財政は引き締めてきている。またしても紹介してしまうが、この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案
困ったことに、民進党の大勢も財政緊縮志向である。自民党の主流も民進党の主流も、保守主義で、財政緊縮的で、小さい政府をめざしている。
日本にも、真に社民的で、国家債務を誇大視せず冷静に判断して、「お金を人民のために使おう」とするような運動が、政党が早くできないものだろうか。そうでなければ安倍自民党による日本の右傾化を止められないのではないだろうか。
山本太郎議員が、松尾匡本を読んで「緩和マネーで財政出動」を訴えている
山本太郎参議院議員の「日曜討論」の発言がすばらしすぎる。いちいち全くそのとおりだ!! 「タローノミクス」と呼ぶそうですけど、「緩和マネーを大胆に活用して、子育て・教育・福祉に財政出動を」だって。ほんの一年ちょっと前の「タローノミクス」は、超弩級のトンデモ論だったのに。いったい誰がいつどう吹き込んで変ったのか。悪い本でも読んだのでしょうか(笑)。こっちの献本先には入ってなかったのですけど。全く予想していなかったことでうれしい驚きです。
ご本人からメールをいただき、ホントに「悪い本」をお読みになったとのことでした。誠にありがとうございます。
MATSUO'S PAGE (トップページ) http://matsuo-tadasu.ptu.jp/
松尾先生のいう「悪い本」↓※実態はすばらしい本ですよ(念のため)
いやいや、これは本当に「うれしい驚き」ですよ!
山本太郎氏と言えば、「反原発」のイメージしかなかったのに、いつの間に松尾先生の本など読むようになったのでしょう。
政党「生活の党と山本太郎となかまたち」も、「反原発」のイメージが強いです。経済政策としては「景気対策」というよりも「反貧困」を主張しているイメージ。
いや、私も原発反対ですけど。でも政党として前面に出すのは、いまなら景気対策でしょう。原発だってもとは、地方の景気対策でした。地方で、他に有効な対策がなく、地元の人は苦渋の判断をしたということがあったわけです。
「反貧困」と「景気対策」って、つながっているようで、深いミゾがあるように思います。「反貧困」というと、対策の対象となる人は、誰が見ても不幸であって、そうでなければ、取り上げてもらえないようなイメージ。(もちろん、取り上げて、対策しなきゃいけない。だけど、同時に、もっと広い対策が必要だと思います)
「景気対策」だともっと対象が広くて、大勢の人に影響があるイメージです。
OECDが、2014年に「トリクルダウンは起こらなかったし、所得格差は経済成長を損なう」という報告を出しています。
成長への悪影響の最大の要因を低所得世帯とそれ以外の所得相関の格差であり、その悪影響は最下位10%のみならず、下位40%までの全ての所得層にまで及ぶとします。つまり、貧困の問題に取り組むだけでなく、より広義に低所得の問題に取り組む必要があるとのこと。
「下位40%までの全ての所得層」の所得を向上させながら、累進の効く課税を強化して、社会保障を強化していく。それがすなわち、貧困対策にもなります。
しかし、ちょっと不思議なんですよね。
このところ、日本では、左派が、金融緩和を批判したり、資本主義を批判したり、財政再建が重要などと、景気対策とはまったく反対の主張が多いように感じていたのですが、生活の党立ち上げ時には、「財源どうするんだ」とマスコミに非難されるぐらい、景気対策を打ち出していたんです。
小沢一郎氏が新党『国民の生活が第一』を旗揚げした。増税はしません、欲しいものは何でも差し上げましょう―というのでは、選挙だけを念頭に笑顔の瞬間風速を追っていると疑われていも仕方がない
2012年7月12日付の「編集手帳」(『「編集手帳」の文章術』より)
消費税増税に反対する小沢一郎氏が民主党を離脱し、新党『国民の生活が第一』をつくったときです。財源の問題は避けて通り…バラマキとも映る諸政策の実現を約束する小沢新党を、読売新聞の社説は「大衆迎合的だ」と批判
(『「編集手帳」の文章術』より)
2012年頃だと仕方なかったんですかね。なにしろ当時は、財政再建派がハバを効かせていて、「財政規律がゆるむと国の信用がなくなり国家破たん」とか「国債を増やすと後の世代にツケを残す。財政による児童虐待」などなどのトンデモ説が勢いがありましたから。安倍自民党も強烈に増税推しでしたし。
でもいまは、かなり情勢が違います。多くの「識者」が、2014年増税後の景気の落ち込みを見て、「これほどとは…」と絶句。
増税とは財政出動の逆で、世の中のお金を吸い上げてしまう行為です。財政出動の逆をやって景気が落ち込むなら、財政出動をうまくやれば、景気は上昇するでしょう。国家債務の増加が不安なら、松尾匡先生の本を読めば、いかに低金利のいま、国債を増やすことが無問題であるかわかります。金利が上がる兆候があれば、すぐに対応できる金融ツールも、現代のわれわれの国には準備があります。
生活の党も、MMT専門家を雇った米大統領候補者のバーニー・サンダース氏みたいに、アドバイサーに松尾先生を雇えばいいのに!
※バーニー・サンダースは、米国で今年行われる大統領選の民主党候補者の一人。自身は財政規律重視派ながら、当面は、「中間層を立て直し、賃金を上げ、他の先進国のどこよりも高い貧困率を必ず下げ」るために、国家債務は問題にならないと理論づけるMMT経済学の専門家をアドバイサーに雇っています。
参考:(拙訳)長年無視されてきた経済理論が見直されている