所得税減税と消費税増税の組み合わせで経済は停滞する

エコノミストのこの記事(A rollercoaster ride)は、英の政府支出がローラーコースターのように上り下りしているという話なんだけど、それに関して、所得税から消費税への移管が、経済の停滞をもたらすという話を紹介している。

記事によると、英国の名目賃金は、2009年の£6,475から2014年には£10,000に上昇した。この上昇は部分的には付加価値税が15%から20%に上昇したためだ。

このような現象は、サッチャー時代に付加価値税が8%から12.5%に上昇した時以来だという。

そして、ケンブリッジ大学の経済史学者ダンカン・ニーダムによる『英国の金融政策-デバリュエーションからサッチャーまで』(2014)から一節が引用されている。そこでは、サッチャー時代の所得税減税と消費税増税の効果について論じている。

短期的には、個人は可処分所得が増えると消費量を維持しつつ、貯蓄を増やす。一方、間接税の増加は消費コストを上げ、人々は高額の商品やサービスの購入を控える。つまり、間接税の税収は下がる。

間接税の増税は、一般物価を上昇させる。これは実質資産の減少をもたらす。人は資産を一定に維持したがるため、物価上昇には貯蓄を増やすことで対応しようとする。それによって全体的に消費量が落ち、結果的に生産量も減る。

これは、日本でもいま起こっていることだ。ただ、金融緩和による円安と、2013年度の財政支出がカウンターのプラス効果を生んでいる。

ちなみに、2013年の財政支出についてだが、「2014年度予算案は、バラマキに見えて実は財政再建を重視」という記事を見てみよう。

2013年度は、当初予算と前年度の補正予算を合わせて約103兆円の政府支出があった。これに対して2012年度の政府支出(当初予算と前年度第四次補正予算の合算)は93兆円しかない。2013年度は前年度より10兆円も政府支出が多く、これは2012年度の名目GDPの約2.1%に相当

2013年度の実質GDP成長率は2.6%という高い水準だったが、GPDの2%を超える政府支出の増加があったことを考えれば、ある意味でこの結果は当然

一方、2014年度の政府支出は、12月5日に閣議決定した5.5兆円の補正予算と今回閣議決定した来年度当初予算を合わせた約101兆円が予定されており、2013年度とほぼ同じ水準になる。当初予算だけの比較では大幅な歳出増となっているが、政府支出総額で見た場合、金額はむしろ減少しているのだ。つまり、他の要素が大きく伸びない限り、GPD成長も限定的となる可能性が高い


現在の日本の経済状況を非常に良く予想した記事ではなかろうか。

最初のエコノミストの記事に戻ると、英国の与党の予算案と、野党の予算案を比較したグラフもまた興味深い。黄色い方が野党の案だ。日本の野党も、これぐらいアグレッシブな政府支出を提案してほしい。

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アバ・ラーナーの機能的財政

訳してみました。たいへん面白い。

元のサイト
Abba Lerner (1943): "Functional Finance"



政府の第一の財政上の責任は(他の誰もその責任を引き受けられないことから)国の財とサービスの消費の総量を一定に維持することである。一定というのは、産み出されるすべての財とサービスが買われるような量のことである。消費の総量がこの量を上回れば、インフレが起こり、これを下回れば、失業が発生する。政府は、自身の支出を増やすことによって消費の総量を増やすことができる。また、減税して、納税者の可処分所得を増やしても消費の総量を増やせる。政府は、自身の支出を減らしたり、増税することによって、消費量を減らすことができる。

この機能的財政の第一法則からみて、政府が支出よりも多く徴税していたり、徴税よりも多く支出していたりしている場合がある。後者の場合は借入によるものか、金を刷っているかによって異なるのだが。どちらのケースでも、政府はこの結果について良いことだとか悪いことだとかいう風に考える必要はない。

興味深いことに、また多くの人にはショッキングでもありそうだが、必然的に考えられることは、単に政府が金の支払いを必要とするからといって税金の徴収が行なわれるべきではない。税の徴収は、納税者が消費できる金の量を減らすという目的で行われるべきなのだ。たとえばインフレを回避するために、とか。

政府は、国民が金を持たず国債を多く持つことが望ましいと考えられる場合にのみ金を借り入れるべきである。他の場合では、あまりにも金利を低くしていて、投資が過剰に誘発されており、インフレが予想される場合にも望ましいこともあるだろう。

金を刷るという行為に対してわれわれは直観的に嫌悪感を持つし、すぐそれをインフレと結びつけたがるが、これらは、金を刷ること自体は金の消費の総量には影響しないのだとわかれば克服できるだろう。

機能的財政の考え方は、伝統的な「健全な財政」主義を完全に否定するものだ。失業とインフレを防止するために、国民が保有する金と公共債の量を調節し、消費の総量を調節するということだ。そして投資の面からみてもっとも望ましいレベルの金利を達成する。必要に応じて、金を刷ったり、貯めたり、消滅させたりすれば良いのだ。

結果として、国の債務が増え続けるということになるかも知れない。しかし、機能的財政が現在の生産量に応じて需要を適切なレベルに維持しているかぎり、危険性はない。それに、機能的財政を適用した結果、長期的には予算が均衡していく自律的な傾向がある。財政均衡主義の居場所などないにも関わらず。

国民が貸し続けるかぎりにおいて、国の債務が何桁になっても何の差支えもない。国民が貸し続けるのを嫌がり始めたら、そして貯蓄をし始めたら、政府は金利やその他の債券に耐えられるようにカネを刷れば良い。それでどうなるかといえば、国民が国債の代わりに政府の通貨を保有するということであり、政府は利払いの増加から解放されるというだけだ。国民が消費して、消費の総量が増えれば、政府は借入の必要がなくなる。そして消費の総量があまりにも大きくなり過ぎたら、そのときこそインフレを防止するために課税すべきときだ。いずれのケースでも、機能的財政は、シンプルで、準自動的な結果を期待できる。




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