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経済成長と再分配

今日、ツイッターで赤木智弘さんのこんなツイートを見ました。

よって、現状に対する最適解は「経済成長をさせながら、社会保障を用いて労働に就けない人に優先的に再分配する」ということなのだが、これを全く理解できない人が多いのが、今の日本のお寒い現状だ。「労働」に対する妄想が強すぎて、話にならない。
https://twitter.com/T_akagi/status/426914010412232704



現状に対する最適解は「経済成長をさせながら、社会保障を用いて労働に就けない人に優先的に再分配する」ということなのだ

この部分の主張には、わたしもまったく賛成です。

赤木さんといえば、「論座」2007年1月号に『「丸山真男をひっぱたきたい――31歳フリーター。希望は、戦争』という文章を書いて、大勢のサヨク論者から批判をくらった人。

当時の文章はこちらで公開されています。
「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。
けっきょく、「自己責任」 ですか 続「『丸山眞男』を ひっぱたきたい」「応答」を読んで──


赤木氏は、高度経済成長からバブルにいたる富の蓄積によって、十分に既得権益層となっている高齢者や正社員を批判します。それは批判される側から見れば、ただの愚痴だといって非難することができるかもしれません。

オールド左翼たちが、どんな風に赤木氏に応答しているかは、『若者を見殺しにする国 (朝日文庫)』も合わせてぜひ読むべきでしょう。

鎌田慧「クビが飛んでも動いてみせる、それがフリーターに与えられた自由ではないですか」

佐高信「『何も持っていない』私というが、いのちは持っているのである」

鶴見俊輔「筆者は15歳のとき…なぜ、パソコンその他の情報技術を習熟させようと覚悟を決め、それに打ち込まなかったのか。そうしていれば10年後、25、26歳のときには、情報技術を自在に操ることができたでしょう。」



時代の幸運と自らの才能の幸運によって安定した地位を得た者たちが、どれほど自分たちを幸運と思わずに済んでいるかがよくわかります。

そして、一生安定した職を望めなさそうな若者が、経済成長が見込めないと思いこまされた挙句、どのぐらい閉塞感に苦しめられているか、オールド左翼側は想像すらできないようです。

これは、ソロスが「第一次世界大戦後のフランスのようだ」と批判しているメルケルの経済政策が、経済的に困窮している周辺国に振りまく閉塞感と同じものです。

赤木氏は『若者を見殺しにする国(朝日文庫)』の中で、こうした貧困層に対して社会はどうすべきかについて検討を加えています。経済理論に基づいた考察ではありませんが、金が貧困者に回ることがまず重要であること、十分な雇用が重要であることを主張します。

そして今日は、現状に対する最適解が「経済成長をさせながら、社会保障を用いて労働に就けない人に優先的に再分配する」だと言っているのです。

まったく、リフレ派と同じ主張ではありませんか。

経済学者ではないのだから、厳密に見ればとんちんかんなことも言っているのかも知れませんが、方向性としてはリフレ派と同じ方を向いているでしょう。

しかし、彼のような考え・立場の人々と、リフレ派が融合するには、わたしからみると、リフレ派には再分配への積極的なコミットメントが少なすぎるように思えます。

もちろんリフレと再分配は、違うものです。リフレを志向する人がすべて、再分配を志向するわけではない。

その上で、わたしはリフレと再分配をともに主張します。というか、再分配のためにこそ、リフレが必要だと思っています。すべての人に健康で文化的な暮らしが行き渡るためには、おカネが潤滑油のように社会を巡る必要があります。

とはいえ、いったいどんな具体的な政策があるのか、それをどう提案すべきなのか、わたしにはまだそこまで考えられていないのですが…

リフレ派の人たちが考えているものの中に、それなりに再分配に寄与するものがあります。
たとえば歳入庁の創設や、納税者番号制度は、公平な再分配制度の基礎として寄与するでしょう。

それでもまだまだ、再分配へのコミットメントは弱いように思えます。

たとえば、良くリフレ派に見られる言い方に「経済のパイを大きくすれば、弱者への配慮が自然となされる」というものがあります。そういった配慮は自然になされるものではないので、必要を感じる人が明示的に制度をつくっていかなければなりません。

ツイッターでねずみ王様がつぎのようにつぶやいていました。

福祉国家以前でも、労働不能な無能力者(=子供)であることが視覚的に明白であれば、救済の対象にはなりました。が、それを社会の構成員と呼べるかどうかが問題になります。
https://twitter.com/yeuxqui/status/425208721153593344

労働可能であるにもかかわらず労働していない者(=失業者)が、自分が無能で、半人前の人間でしかないかということを視覚的にアピールせずとも、社会保険の対象となるという第二次大戦後に成立したこの仕組みが、どれほど異様な変化だったかを、カステルは説得的に示していると思う。
https://twitter.com/yeuxqui/status/425211475813085184



社会がどのような対象を救済すべきか、概念は大きく変わってきています。いままでは努力や窮状を人に認められなければ救済されなかった。しだいにそうではなくなってきています。

救済対象を、過去の常識にとらわれず拡大して考えられる人が、明示的に制度をつくっていかなければ、格差の拡大による社会の不安定化や、もしくは将来的に起こる雇用の減少に対応できなくなるでしょう。

ですから、経済成長と再分配の議論で、再分配の話があまりされない場合に、特に左派よりの人が不安を感じるのは、極めて当たり前のことなのです。「まずは経済成長だ」という話はもっともではあるのですが、そちらが強調されることによって不安を感じる人を責めるわけにもいかないと思います。

今後、リフレ論と合わせて、再分配政策を具体的に強く主張する論者が、どんどん出てくるように願います。
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安倍政権と雇用と賃金、アンチ安倍勢力と雇用と賃金

最近、「労働分配率の低下が問題」というフレーズを見かけ、調べてみると、労働分配率にはデータの取り方でいくつものグラフがあることがわかりました。

たとえば、「労働分配率の低下を止められるか」(PDF)と題されたみずほ総研のレポートでは、OECDのこんなグラフが紹介されています。
senshinkoku_roudoubunpai.jpg


一方で、「賃上げと内部留保を巡る混乱―賃上げはストックではなくフローから」(PDF)と題された日本リサーチ総研のレポートでは、こんなグラフが。
nichibei_roudoubunpai.jpg

どっちのグラフを見ながら考えるかで、ものの見方が全然変わってしまいます。

いくつかグーグル検索した中でもっとも興味を惹かれたのは野田正彦・阿部正浩「労働分配率、賃金低下」(PDF)というレポートです。

労働分配率の測定については…複数の方法がある。そして、それぞれの測定法で計測された労働分配率の変動はそれぞれに異なっている面がある。ある測定方法では分配率が大きく変動しているように見えるが、別の測定方法ではあまり変動していないように見える。したがって、「適切な」測定を行わなければ、実証的には、「適切な」労働分配率の水準を見出すことは困難であり、「分配の水準」の議論をむやみに混乱させることになってしまう。


まさにまさに、今まさに、「むやみに混乱」しているように見えますよ。

さてこのレポートでは、分析の結果、次のようなまとめがされています。

そこで本稿では、上場企業のパネルデータを用いて、近年になって賃金の上昇を阻害してきた要因について実証分析を行った。われわれの結果は、佐々木・米澤[2000]が見出している労働分配率に対するコーポレート・ガバナンスの影響と整合的である。すなわち、金融機関と密接な関係をもつ旧来型の日本型ガバナンスがなされている企業では賃金が相対的に高く、逆に、外国人株主の影響が強い企業ほど、賃金が低くなることを示している。


その他、以前は金融機関による持ち株が賃金に対してプラスだったが、1997年の危機以降は持ち合い解消がされて効果がなくなったこと、株式持ち合いも同様に、以前は賃金に対してプラスだったが今では効果が限定されていること、相場の上昇が賃金を上昇させることなどが述べられています。

少し興味深いのは、成果主義の導入と賃金との関連は必ずしも見られなかったことです。また、賃金カットにいち早く手をつけた企業が、その後収益性が改善して、従業員の賃金上昇につながったことが、データとしては見られるということです。

以上を踏まえた上で、安倍政権の国際展開戦略「積極的な世界市場展開と、対内直接投資拡大等を通じ、世界のヒト、モノ、お金を日本に惹きつけ、世界の経済成長を取り込みます」を見ると、一般の労働者にとっては手放しで喜べない戦略だと考えられます。

海外からの投資促進によって、国内企業の外国人株主が増えるなら、雇用者の賃金は下がるだろう、と予想されます。

それに、安倍政権は雇用流動化をうたっています。新たな成長戦略では、「雇用維持型から労働移動支援型への転換」と言っています。解雇自由化を促進するなら、雇用者の立場は弱くなるということが予想されます。

また、パソナの会長竹中平蔵氏が、産業競争力会議で発言力を持っているのも気になります。景気回復局面で、企業は人材が必要になりますが、消費税増税によって経営が圧迫される企業では、人件費にあたらず税額控除の対象になる派遣社員の割合はますます増えることになるでしょう。こうした派遣市場の拡大は、竹中氏の利益となり、ますます発言力を増します。そして一般の労働者の暮らしはなかなか良くならないということになります。

その一方、企業活動が活発化し、雇用が増える効果のある金融緩和政策(アベノミクスの第一の矢)の導入では、少なくとも雇用者を増やす効果はあるでしょう。経済が停滞し、テクノロジーが発達した社会では、国家が貨幣を供給することで、雇用を増やすことが望ましい政策です。

マイナス、マイナス、プラス、といった様相を呈する安倍政権であります。

しかし共産党やら社民党を見るともっと悲惨です。

政府が金融政策に理解がないなら、企業の投資活動は活発になりません。設備投資がなされなければ、雇用は増えません。企業が収益を見込めないならば、賃金は上がらないでしょう。たとえ外国人投資家が増えなくても、解雇自由化が促進されなくても、結局、賃金は上がらないでしょう。

マイナス、マイナス、マイナスです。

あり得ないことではありますが、後者が政権についたら、経済成長が蔑視され、貧しい人々の暮らしはまったく改善することができず、なけなしの資源をゼロサム的に奪い合う社会が出現してしまいます。これでは、いくら憲法の理念を説いても、人権を主張しても、人々はそういったことを顧みる余裕がなくなります。

わたしは、一般労働者や低所得者の健康で文化的な生活の保障を重視しながら、経済成長をも促進する政党を望みます。経済成長こそが、社会福祉の原資なのです。

これから日本に現れるべきは、国家が経済に与えるマクロ効果を理解し積極的な金融政策を主張しつつ、憲法や人権の理念を理解し教育を重視する政党です。現在の日本に、こうした政党は、ただの一つも存在していません。数年以内に登場することを切に望みます。

パソナの取締役会長竹中平蔵氏は消費税増税に反対の賛成なのだ

竹中平蔵氏は、もともと今回の消費税増税には反対だったが、決まったものは仕方がないとして、最後は賛成に回るという、信じられないぐらい日和見な意見転換をした方ですが、その竹中氏が消費税増税について語る中で、次のような発言をしており、ちょっと驚いてしまいました。

竹中平蔵氏消費増税を語る 消費税あげたって何もよくならない でも賛成

(社会保障に回るのは)1%なんですよ。では1%分社会保障が良くなるかっていったら、そのうちの0.6%は、実は低所得者対策ですから、ふつうの人には回ってこないんです。


社会保障制度には、低所得者対策の他に「年金」「医療」といったものが含まれ、これは低所得者に限らず、基本的にすべての人が利用するものです。竹中氏は、今回の増税では、この充実までは手が回らない、と言っているのでしょう。

つまり、竹中氏が以前増税反対していた理由の一つは「0.6%は、実は低所得者対策」「ふつうの人には回ってこない」だと考えられます。(1月18日注:この文章変でした。消し消し)

ところでわたしは、現在の経済状況での増税には一貫して反対の立場です(将来的にリフレが確実となってから増税すべきと考えています)。竹中氏の言うように「決まってしまったのだから仕方がない」とはまったく思いません。今からでも止めればいい。

そして増税に反対ですが、だからといって低所得者対策をしないでいいとは考えません。少し考えてみていただきたいのですが、「増税したら低所得者対策できる」という考え方は、「増税しないと低所得者対策できない」というゼロサム的考え方につながります。しかし現在の日本で、低所得者対策は、ゼロサム問題ではありません。

本当に言うべきことは、「貧困者対策はする、しかしいま増税はしない」です。まずはリフレが安定するまで、債務を無暗に恐れず、予算を割り当てていくことがとても重要です。

仮に、1万歩譲って、竹中氏がいろいろ経済に無理解なために「増税はしかたない」と言ったことをよしとしましょう。今後、もう少し勉強していただいて(本当は竹中氏はわかっているのでしょうけどね…)、景気が悪い時には増税しないという風に最後まで意見を通せるようになればよしです。

しかし、デフレから脱却できておらず、雇用が不足しており、非正規が増え続け、雇用条件の悪化が問題にされ、若者の貧困が問題になっているときに、「(低所得ではない)ふつうの人に効果がないことは意味がない」とは到底言えません。政策提言する立場の人が言うべきことではない。

そもそもですね、パソナという人材派遣会社の取締役会長に消費税増税について聞くことが間違っています。なぜか?それはこちらを見ればわかります。

消費税の税率が上がると派遣労働者が増える?

「経営者にとって一番手っ取り早い節税方法は、正規労働者を減らし、その分を派遣や外注でまかなうことです。これらは控除対象になりますから、収める税額が減るのです」
(『マンガ解説「消費税増税」どくまんじゅうにご用心!!』連合通信社発行)

派遣労働者の賃金は人件費ではなく、物件費扱いになるというのがミソ。派遣労働というサービスを購入したとして、税額控除の対象になるのです


このように、消費税を増税すれば人材派遣業の市場が広がると予想される場合、もしも人材派遣会社の取締役会長が、消費税増税に反対するとしたら、その人はその会社の取締役としてきちんと役目を果たしていないと言えるでしょう。

竹中氏は人材派遣会社の取締役会長として、むしろ、消費税増税賛成でなければおかしいし、おそらく本音はそうなのでしょう。しかし最初のうち、反対を表明していました。それは、最終的には消費税増税が予定通り行われるだろうということが見えていたからだ、という可能性も考えられます。多少反対を言っても大丈夫だろうと踏んだから、消費税増税反対派の人気を取り付けるべく、当初自分の立場と矛盾する意見を言ったのだという疑いを抱かざるを得ません。

さまざまな立場の人が、自分が属する業界の利害を代表して政策提言するのは良いでしょう。しかしそれをどう判断するかについては、よくよく注意する必要があります。

人材派遣業から利益を得て、搾取されない立場の人は、竹中氏についていけば良いでしょう。しかしそうでない人は、竹中氏を信用しついていくべきか、十分考えなければならないと思います。

ソロスによる世界経済の展望

ヘッジファンドの草分けジョージ・ソロス氏は、たいへん興味深い人物である。英国ポンド危機などを利用して巨万の富をつくりあげた後、開かれた民主的な社会を構築するためにOpen Society財団を創設。さらに、世界が解決すべき経済的問題に取り組むために、新しい経済思考を発信するInstitute of New Economic Thinking(訳すと、新経済思考協会とでもなるだろうか)の創設にも関わった。

このソロス氏が、1月2日に、変わりゆく世界経済についてProject Syndicateなるサイトに投稿しており、これまた興味深い内容だったので、訳してみた。

中でも注目すべきは、第一次世界大戦後、ドイツが、負わされた賠償金やフランスが引き起こしたルール問題※によって経済的に消耗し、ヒトラーを生む土壌が形成されたこと、そしてそれを今、ドイツのメルケルが再現しつつあるという懸念である。ソロスのこの懸念については、長年のデフレをようやく脱却できるかどうか瀬戸際にいるわれわれも、よくよく考えるべきだろう。われわれの国では、土壌はすでに形成され、ヒトラーはすでに台頭してしまっただろうか?いやいや、もちろん、まだ間に合う。これから数年の間に、どのような政党が必要とされているか、ということである。

※ルール問題は実際にはソロスは触れていない。ルール問題の収拾に尽力したと言われるアリスティード・ブリアンに言及しているだけだ。ソロスはブリアンを、賠償金にこだわったためドイツを困窮に追いやった張本人のように書いている。わたしはブリアンについてまだあまり知らないので、一応この程度をメモ。



ジョージ・ソロス「世界経済の展望」
2014年1月2日

2013年の終わりにあたって、世界で経済的にもっとも影響力のある国々で成長を復活させる試みは、世界中に良い影響をもたらしている(ただしユーロ圏を除く)。世界経済にとって今後起こり得る問題は、政治的な性質のものだ。

25年のスタグネーションの後、日本は、かつてない規模の量的緩和を行い、経済に再び息を吹き込もうとしている。リスキーな実験ではある。急速な成長は金利を上昇させ、債務返済が不可能になる可能性がある。しかし安倍晋三総理は、日本に緩慢な死の宣告を下すよりは、そのリスクを取る方を選んだのだ。また、公衆の熱心な支持から判断するに、一般の日本国民もそれを選んだ。

それとは反対に、EUは、日本が死に物狂いで逃れようとしている長年のスタグネーションの一種に向かっている。その賭け金は高くつく。国民国家それぞれは失われた10年をもう一回生き延びることができるかも知れないが、国民国家の不完全な協同体であるEUは、スタグネーションを経験すれば容易に崩壊してしまうだろう。

ユーロの設計は、ドイツ・マルクを手本にしたものだが、致命的な欠陥がある。共通の国債なしに、共通の中銀をつくることは、政府の債務がどの国もコントロールできない通貨建てとなっているということだ。つまり、必然的にデフォルトのリスクを負っている。2008年の危機のあと、いくつかのEUメンバー国は過度に負債を抱えることになった。そしてリスクプレミアムはユーロ圏を、恒久的な債権者と債務者に分断してしまった。

この欠陥は、個々の国債をユーロ債に置き換えることで解決することはできる。しかし不幸なことにドイツの首相アンジェラ・メルケルは、ドイツ国民のヨーロッパ統合に対する態度が急進的に変わってきていることを背景に、その可能性を排除した。再統一にあたり、ドイツは統合の主導者だった。いまや、コストが重荷となり、ドイツの納税者は、ヨーロッパの債務者のための資金源となることを嫌がっている。

2008年の危機の後、メルケルは各国が自国の金融機関の面倒を見ること、政府債務は全額返済されなければならないことを主張した。それと自覚せずに、ドイツは第一次世界大戦後のフランスの悲劇的過ちを繰り返しつつある。当時のアリスティード・ブリアン仏首相の、賠償金へのこだわりが、ヒトラーの台頭につながったのだ。同様にアンジェラ・メルケルのポリシーは、ヨーロッパの他地域で過激派の台頭を引き起こしている。

現状のユーロをそういった合意が支配しているのは、今後もドイツは、共通通貨を維持するのに必要最低限のことしかしないとみなされているからだ。そして市場と欧州の権力筋が、いかなる国であってもその合意に反論するならお仕置きしようとしているからだ。とはいえ、金融危機のもっとも深刻な状況は過ぎ去った。欧州の財政当局は、緊縮策が逆効果だと暗に認めつつある。そして追加的な緊縮財政政策を押しつけるのを止めるようになった。これにより債務国は多少息継ぎできるようになった。成長の見込みがないとはいえ、金融市場は安定してきた。

将来の危機は政治的なところから発生するだろう。まさにそれは起こりつつある。EUがあまりにも内向的だったため、シリアやウクライナといった外部の脅威に適切に対応してこなかった。しかし見通しは絶望的というわけでもない。ロシアからの脅威の復活は、欧州の分裂への進行を逆転させ得る。

結果として、危機はEUが、急進的な変革への熱狂を呼び起こす「なにか素敵なもの」ではないことを明らかにした。以前、対等な国家の自発的な協同体(結社)が、共通の善のために主権の一部を犠牲にするという、開かれた社会の理念の具現化とされていたものは、ユーロ危機によって、もはや自発的でも対等でもない、債権者と債務者の関係へと変質してしまった。まさに、ユーロはEUを丸ごと破壊し得るのだ。

ヨーロッパと対称的に、米国は先進国中の最強の経済となりつつある。シェールエネルギーは、大きくは製造業に、また特に石油化学について重要な競争力を付与した。銀行と家計のデレバレッジはそれなりに進んでいる。量的緩和は資産価値を押し上げてきた。住宅市場は改善し、建設業界の失業も低下している。差し押さえによって引き起こされた景気悪化はほぼ解消しつつある。

それより驚いたのは、米国政治の両極化が停まる兆候が見えたことだ。二大政党制は2世紀の間、そこそこうまく機能してきた。両党が総選挙において中道層の獲得のために競争する必要があったからである。最近になって、共和党は宗教と市場の原理主義者連合に占拠され、さらにネオコンによって強化されて極右化した。民主党は中道層の獲得のために巻き返しを試み、二つの党は結託して選挙区の区割りを行なった。その結果、活動家が支配する党予備選挙が、総選挙に優先するようになったのである。

これはアメリカ政治の両極化を終わらせた。最終的には、共和党のティー・パーティー派は強く出過ぎてしまった。最近の政府閉鎖に関する大失態の後、共和党のエスタブリッシュメントの残党が力を取り戻し始めた。彼らがまた二大政党制を復活させるだろう。

世界が直面する不確実性は、ユーロではなく、中国の将来の方向性だ。その急成長に寄与してきた成長モデルは、力尽きつつある。

このモデルは、輸出と投資の成長を引っ張るために、家計の財政の抑制に依存していた。そのため、家計はいまやGDPの35%に縮小し、現在の成長モデルの財源として十分な貯蓄はなくなった。このため様々な形態の借入による資金調達が指数関数的に増えてきた。

これは2008年の危機に先立つ数年間の米国金融の状況と不気味な相似性がある。しかし重要な相違点もある。米国では、金融市場は政治を動かす傾向がある。中国では、国家が銀行と経済の大部分を保有し、共産党が国有企業をコントロールしている。

危険を自覚して、中国人民銀行は2012年に債務額の引き締めを始めた。しかし引き締めが現実的に経済を損ない始めたとき、共産党はその支配力を行使した。2013年7月、指導者は鉄鋼業界に炉を再始動するよう指示し、中国人民銀行に資金を供給するよう命じた。経済は方向転換した。11月には、第18期中央委員会第三回全体会議で、広範囲に及ぶ改革を発表した。こうした進捗は、大枠で言って世界の展望を明るくしている。

中国は、構造改革よりも経済成長を優先するという正しい選択をした。構造改革は、緊縮財政とともに行われると、経済を錐揉み状にデフレへと叩き落とす。しかし、中国の現在の政策には、解決されていない自己矛盾がある。炉の再始動は、指数関数的に債務を増加させ、2年以上持続することができないだろう。

いつどうやってこの矛盾を解決するかによって、中国と世界に深刻な影響がある。中国でこれが成功すれば、経済的改革とともに政治的改革をも引き起こすだろう。失敗すれば、この国の広い信頼を損なうことになる。それは国内での抑圧と、国外での軍事対立を引き起こすことになるだろう。

他の未解決の問題は、適切なグローバル・ガバナンスの不在である。国連安全保障理事会の常任理事国5か国で合意されないということは、シリアのような国々で、人権の危機を悪化させている。地球温暖化の対応についても言うまでもない。しかし、今後数年に顕在化する中国の難問とは異なり、グローバル・ガバナンスの不在は、果てしなく続く問題である。


ラトビアのユーロ導入とEUの緊縮政策

一昨日の1月1日、バルト三国の一つラトビアでは、10年前からの懸案であるユーロ導入がようやく実施された。

それをめぐって、懸念が表明されている。

Mad Latvia defies its own people to join the euro(マッドなラトビア、自国民を無視してユーロ加盟)
By Ambrose Evans-Pritchard Economics
Telegraph Blog: Last updated: July 9th, 2013

「ラトビア人の22%しかこの愚行を支持しておらず、53%が反対している」「ラトビアの失業率はピークの20.5%から11.7%まで下落しましたが、7%が失業者名簿からドロップアウトしました(労働者の諦め感はEUトップ)。 国民のおよそ10%が国を去りました」


わたしは、EUの緊縮的な財政政策・金融政策については批判的だが、統一通貨自体については、まだデメリットをメリットが上回るのかどうか判断できていない。というよりも、むしろ、通貨の統一は必要なのではないか、という気持ちが捨てきれないので、こういう出来事には興味を惹かれる。

とりあえず少し背景が知りたいと思い、調べてみた。

ラトビアは、東はロシアと国境を接し、西は海を渡ればスウェーデンだ。かつてはスウェーデンに支配されたこともあった。ロシアとの交易も盛んでありながら、北欧の文化も色濃く影響し、文化的にも経済的にも発展した美しい国である。
参考:ベルギー駐在員写真日記 バルト三国旅行記 ラトビア編

第二次世界大戦を機にソ連に併合されてから、産業の発展したバルト三国には、多くのスラブ系ロシア人が送り込まれ、1970年にはラトビアの首都リガにおけるラトビア人の割合は、4割にまで低下していたという。(NHKブックス『分裂するソ連』)
ラトビアにおいて、第二次世界大戦時からずっと、文化的に北欧と親交の深かったラトビア人と、社会主義・共産主義のロシア人との対立が続いていたということは気に留めるべきことかと思う。

そんな中、リーマンショックが起きた頃にはこういう状況であった。

危機前と後のラトビアの二度の議会選挙は、果てしない民族政治となった。緊縮政策は、大半が民族的にラトビア人である政党と結びついており、より社会民主主義的な代替案は、民族的にロシア人である政党と結びついていた


それぞれの民族コミュニティーが経済政策を巡って分裂していたのは確かだが、依然としてソ連占領のトラウマを抱え、2008年の危機後、どのような経済政策をとるべきかを巡って分裂していた国において、主として、民族的な枠組みによる経済政策が、緊縮政策が優勢となるのを保証した


(ともに「ラトビアの経済破綻、新自由主義の“サクセス・ストーリー”: ヨーロッパとアメリカの模範としてもてはやされる」より引用)

緊縮策 VS. 社会民主主義だけでなく、西欧 VS. ソ連(支配時および崩壊後の影響)という対立軸もあって、たいへんに複雑な状況のようである。経済論争と民族対立が重なってしまっているなんて、まったく、考えただけでも悪夢だ。

マッドなラトビア、自国民を無視してユーロ加盟」では、国民(約220万人)の10%が国を去ったと書かれている。記事の題名からしてあたかもユーロ加盟のせいのように思えるが、隣国ウクライナでは、「1993~2013年に実に650万(1993年の12.5%)もの人口が失われている」という。(「東欧人口の流出問題」)その原因は、「体制転換(※ソ連崩壊のこと)のおかげで国境が開放されて、人々が国外移住の自由を手にしたため」とある。

ちなみに在ラトビア日本国大使館のサイトでは、毎年1万人前後の労働者がEU諸国へ流出していると書いてある。

さて、リーマン・ショック後に起きた欧州ソブリン危機において、ラトビアはひときわ激しいダメージを受けた。これは2004年のEU加盟後、スウェーデンなどから過剰な資金供給を受けて、資産バブルが起きていたためだという。しかしスウェーデンの銀行は結局資金を引き揚げることなく、ラトビアにおける金融危機をおさえこんだというのだ。

これに関するレポートに、次のように記されている。

実際に、中東欧・バルト3国に進出した欧州系の銀行は、損失をかかえながらも、進出先から撤退していない。このように、EUの脈絡においては、親銀行の全てが各種の対応策を実施し、子会社が所在する構成国の銀行市場の安定性を高めている。

この点は90年代の東アジア通貨危機下の外国銀行の行動(資金の引き揚げや支店・子会社の閉鎖)などとは明確に異なっており、EU域内に展開された外資主導型銀行制度が有する安定的側面の一端を現していると考えられる。

これら諸国では、2007年以降、バブル崩壊やカレンシーミスマッチ問題に直面したが、危機がアジア通貨危機の経路をたどって展開するのを阻止しているEU独自の要因が読み取れる(北欧の親銀行による強力なコミットメントやERMIIからユーロ導入までの間の固定為替相場制度への強いコミットメント等)。

中東欧諸国・バルト3国の銀行市場(PDF)


このアジア通貨危機時との違いについては、日本がアジア通貨危機時に演じた役割と比べてしまう。当時日本の金融機関も自らの身の対処に必死だったということを勘案しても。

ジョージ・ソロスは、『グローバル資本主義の危機』の中で、日本は膨大な外貨準備と増大する巨額の貿易黒字があって、銀行システムに資本を注入して景気を刺激することなど朝飯前だったのにしなかったと、若干非難めいた調子で書いている。スウェーデンはさすがに世界最古の中銀を設立しただけのことはあって、対処に長けている、と感心してしまう。

これら北欧の銀行が、「ラトビアの経済破綻、新自由主義の“サクセス・ストーリー”: ヨーロッパとアメリカの模範としてもてはやされる」に書かれるマネー・ロンダリングとかかわりがあるのかどうかまでは、わからないのだが。

かくして一応、ラトビアの経済は復活し、現在はGDP成長率年5%前後を保っている。

しかし、過激な緊縮財政を行ったため、国民の不満により政権は崩壊し、貧困状況も悪いままだ。

急に公務員給与や民間給与の30%の引き下げや、福祉予算の削減を実施しなければならなくなり、国民の不満は頂点に達して09年2月には政権が崩壊してしまった
(21.11.15) ラトビア経済の崩壊とスウェーデンの憂鬱


ラトビアでは子供の43.6%が貧困と社会的疎外の危機にあることが明らかになった。ラトビアの状況はEU加盟国としては,ブルガリア(52%),ルーマニア(49.1%)に次いで深刻で,他のバルト諸国よりも状況が悪いことが示された(リトアニア:33.4%,エストニア:24.8%)
ラトビア月報(2013年2月)



ラトビアは隣国エストニアとともに、ITの発達でも知られている。高度教育が施され、文化も産業も発達した国で、子どもの貧困がもっと少なくできないわけがない。

この国におけるソ連崩壊後の混乱や、民族対立が、より一層、緊縮策を頑固に支えているのかも知れない。

EUに加盟したことが良かったのか、ウクライナのように、ロシアとの関係を深めるべきだったのか、いまとなっては、彼らは迷うこともできない。しかし、GDP成長率が5%あって、貧困状況が悪いということであれば、緊縮政策をやめ、雇用支援や貧困層への給付といった、社会保障政策により大きく予算を配分していくしかないと思われる。

「ラトビアの経済破綻、新自由主義の“サクセス・ストーリー”: ヨーロッパとアメリカの模範としてもてはやされる」に書かれているように、本当にラトビアに「ネオリベラル連中」がひどくはびこっていて、ロシアだけでなく西欧からも食い物にされているのか、それともラトビアのエリートはそれほど悪意でも貪欲でもなく、一応がんばって国民のために働いていて、せいぜい日本の政治家程度の利欲なのか(それでも十分貪欲だと思うが)、真相はその中間ぐらいにあるのだろう。

ラトビアの腐敗認識指数は53で、ロシアの28よりは、はるかに汚職などの度合は低い。(ちなみに日本は74で、最も認識指数の高いデンマークは91である)

ラトビアのエリートがどのように振る舞うかは、その国民自身が選び取っていくしかないが、せめてEUが全体として、貧困層への社会保障と雇用に力を入れ、それに必要な財源は緊縮から外す方向に、早く方針変換することを望む。そうした方針(貧困層支援)を打ち出すことで、ラトビアのエリートも考え直していけるかも知れない。
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Author:アリス
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