日本の貧弱すぎる再分配は戦争をもたらす
社会保障費や、家族関係費が、GDPに占める割合はこうである。
(出典:社会保障・税一体改革について - 厚生労働省(PDF))


最近では、子供の6人に1人が貧困で、非正規フルタイムの低所得労働者が増え、シングルマザーの貧困もしばしば話題になっているが、低所得者層への給付を新たに行なう話は出てこない。消費税増税に対して軽減税率という、高所得者まで万遍なく恩恵がいく対策ぐらいしか増税対策が提案されない。
どうしてこれほど、日本では再分配政策が軽視されているのだろうか。
今年2月に、ドイツのハノーバー大の研究者によって出された論文が興味深い。
Biased Perceptions of Income Inequality and Redistribution
(収入格差の誤認識と再分配)
人々が、社会の中で自分が実際に属する所得階級に対して、もっと上の階級に属していると思っている場合、そして、「がんばればもっと稼げる」と思っている場合、その政府の再分配機能は弱くなる、そうだ。
2009年に行われた国際社会調査プログラムによる調査結果では、日本の上方移動性は、他の調査国に比べてダントツに低い。この調査は、「あなたの今の職業(もしくは、現在無職なら最後についていた職業)とあなたが15歳前後に父親がついていた職業をを比べてみてください」という質問によって、上方移動性を調べている。日本は、親に比べて、より良い収入を得ていると答えた人が他国より圧倒的に少ない。(出典は上に挙げた論文)

2009年時点でデフレに陥ってすでに10年以上経っているので、当たり前だ、ということはいえるが、問題は、日本人がそれを認識していないことだ。呑気にも、「親よりももっと稼げるようになる」と認識している人の割合は、他の調査国と似たようなものだ。
おそらく「がんばれば稼げるようになるのだから、何も再分配してもらう必要はない」「がんばって稼げるようになったときに、再分配のためにお金を取られてしまいたくない」という感覚があるのだろう。
再分配が強化されないこと、生活保護が削減されること、そうしたことが、皆、安倍や自民党が悪いという人が多いが、それは結局のところ、国民の認識の表れだ。
こうした認識は、2007年の米ピュー・リサーチセンターによる次の調査結果とも整合的である。
自力で生きていけない人たちを国や政府は助けるべきだとは思わないと言う人が日本では三人に一人
日本 38%、アメリカ 28%、イギリス 8%、フランス 8%、ドイツ 7%、中国 9%、インド 8%
What the World Thinks in 2007 (The Pew Global Attitudes Project)
http://www.pewglobal.org/category/datasets/2007/
このアンケート結果をひどいと感じる人が多いようだが、これはかつて「論座」2007年1月号に『「丸山真男をひっぱたきたい――31歳フリーター。希望は、戦争』という文章を書いた赤木智弘氏を批判したサヨク論者たちの態度にまったく共通している。
鎌田慧「クビが飛んでも動いてみせる、それがフリーターに与えられた自由ではないですか」
佐高信「『何も持っていない』私というが、いのちは持っているのである」
鶴見俊輔「筆者は15歳のとき…なぜ、パソコンその他の情報技術を習熟させようと覚悟を決め、それに打ち込まなかったのか。そうしていれば10年後、25、26歳のときには、情報技術を自在に操ることができたでしょう。」
日本人の認識では、がんばれば稼げるようになり、親よりも出世するはずなのだ。だから、今貧困にいる人に、再分配する必要はないのだ。
ところが認識と実際にはひどいギャップがある。日本では、他国よりもさらに社会的地位上昇の可能性が低い。
この国で、いったん非正規で低収入の立場に陥ってしまったら、社会的地位を上げることは非常に難しい。
長く続くデフレは、主たる要因となっているだろう。
その原因の解消も重要だが、それと同時にいま、改めてきちんと認識すべきことは、「日本には格差がある」「その格差は固定化されている」つまり、日本は自力で生活レベルを向上させることが極めて難しい社会ということだ。
デフレが解消すれば、こうした問題が魔法のように解消するわけではないので、デフレ解消への政策とともに、積極的な再分配政策を展開することが必要だ。
そうでなければ、日本でも社会不安が大きくなるだろう。
そうなったとき、安倍自民党がまだマシに見えるような、さらなる極右政党が出来てしまう可能性は高いのだ。
そうならないように、日本でも早く、リフレ金融政策と、再分配政策を積極的に主張する左派政党が出て来なければならない。
それは、アベノミクスを消費税増税にかこつけてリフレ政策ごと葬り去ろうというような政党であってはならない。リフレの芽は消し去ってはならない。リフレが定着するまでは、財政再建も増税も後回しにしよう、という感覚を持つ政党でなければならない。そうでなければ、早晩日本はさらなる極右に席巻されてしまうだろう。