日本の貧弱すぎる再分配は戦争をもたらす

日本の再分配機能は、先進国の中ではひどく貧弱だ。アメリカとほぼ同様の、新自由主義国家にすでになっているようにも見える。

社会保障費や、家族関係費が、GDPに占める割合はこうである。
(出典:社会保障・税一体改革について - 厚生労働省(PDF)

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最近では、子供の6人に1人が貧困で、非正規フルタイムの低所得労働者が増え、シングルマザーの貧困もしばしば話題になっているが、低所得者層への給付を新たに行なう話は出てこない。消費税増税に対して軽減税率という、高所得者まで万遍なく恩恵がいく対策ぐらいしか増税対策が提案されない。

どうしてこれほど、日本では再分配政策が軽視されているのだろうか。

今年2月に、ドイツのハノーバー大の研究者によって出された論文が興味深い。

Biased Perceptions of Income Inequality and Redistribution
(収入格差の誤認識と再分配)

人々が、社会の中で自分が実際に属する所得階級に対して、もっと上の階級に属していると思っている場合、そして、「がんばればもっと稼げる」と思っている場合、その政府の再分配機能は弱くなる、そうだ。

2009年に行われた国際社会調査プログラムによる調査結果では、日本の上方移動性は、他の調査国に比べてダントツに低い。この調査は、「あなたの今の職業(もしくは、現在無職なら最後についていた職業)とあなたが15歳前後に父親がついていた職業をを比べてみてください」という質問によって、上方移動性を調べている。日本は、親に比べて、より良い収入を得ていると答えた人が他国より圧倒的に少ない。(出典は上に挙げた論文)

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2009年時点でデフレに陥ってすでに10年以上経っているので、当たり前だ、ということはいえるが、問題は、日本人がそれを認識していないことだ。呑気にも、「親よりももっと稼げるようになる」と認識している人の割合は、他の調査国と似たようなものだ。

おそらく「がんばれば稼げるようになるのだから、何も再分配してもらう必要はない」「がんばって稼げるようになったときに、再分配のためにお金を取られてしまいたくない」という感覚があるのだろう。

再分配が強化されないこと、生活保護が削減されること、そうしたことが、皆、安倍や自民党が悪いという人が多いが、それは結局のところ、国民の認識の表れだ。

こうした認識は、2007年の米ピュー・リサーチセンターによる次の調査結果とも整合的である。

自力で生きていけない人たちを国や政府は助けるべきだとは思わないと言う人が日本では三人に一人
日本 38%、アメリカ 28%、イギリス 8%、フランス 8%、ドイツ 7%、中国 9%、インド 8%



What the World Thinks in 2007 (The Pew Global Attitudes Project)
http://www.pewglobal.org/category/datasets/2007/

このアンケート結果をひどいと感じる人が多いようだが、これはかつて「論座」2007年1月号に『「丸山真男をひっぱたきたい――31歳フリーター。希望は、戦争』という文章を書いた赤木智弘氏を批判したサヨク論者たちの態度にまったく共通している。

鎌田慧「クビが飛んでも動いてみせる、それがフリーターに与えられた自由ではないですか」

佐高信「『何も持っていない』私というが、いのちは持っているのである」

鶴見俊輔「筆者は15歳のとき…なぜ、パソコンその他の情報技術を習熟させようと覚悟を決め、それに打ち込まなかったのか。そうしていれば10年後、25、26歳のときには、情報技術を自在に操ることができたでしょう。」



日本人の認識では、がんばれば稼げるようになり、親よりも出世するはずなのだ。だから、今貧困にいる人に、再分配する必要はないのだ。

ところが認識と実際にはひどいギャップがある。日本では、他国よりもさらに社会的地位上昇の可能性が低い。

この国で、いったん非正規で低収入の立場に陥ってしまったら、社会的地位を上げることは非常に難しい。

長く続くデフレは、主たる要因となっているだろう。

その原因の解消も重要だが、それと同時にいま、改めてきちんと認識すべきことは、「日本には格差がある」「その格差は固定化されている」つまり、日本は自力で生活レベルを向上させることが極めて難しい社会ということだ。

デフレが解消すれば、こうした問題が魔法のように解消するわけではないので、デフレ解消への政策とともに、積極的な再分配政策を展開することが必要だ。

そうでなければ、日本でも社会不安が大きくなるだろう。

そうなったとき、安倍自民党がまだマシに見えるような、さらなる極右政党が出来てしまう可能性は高いのだ。

そうならないように、日本でも早く、リフレ金融政策と、再分配政策を積極的に主張する左派政党が出て来なければならない。

それは、アベノミクスを消費税増税にかこつけてリフレ政策ごと葬り去ろうというような政党であってはならない。リフレの芽は消し去ってはならない。リフレが定着するまでは、財政再建も増税も後回しにしよう、という感覚を持つ政党でなければならない。そうでなければ、早晩日本はさらなる極右に席巻されてしまうだろう。

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雨宮さんの「反富裕」スローガンは効果があるのか

所得格差の小さい国、日本

日本の所得格差は比較的小さいと言われている。
所得の指標の取り方はいろいろあるが、たとえば下のグラフを見ると、先進国の中では小さい方に属している。
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出典:社会実情データ図録

※最近、ジニ係数が上昇し、所得格差が拡がりつつあるように見えるのは、高齢化により定年退職した人の割合が多くなっているからである。

また、法人税は外国に比べて高く設定されており、超富裕層への課税も、同様に高めに設定されている。

参考:個人所得課税の実効税率の国際比較(夫婦子2人(専業主婦)の給与所得者)
財務省サイトより
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この図は、「子どもが2人いる夫婦で、夫と専業主婦の家庭」の所得課税を比較したものだが、年収5000万円の手前位からは、イギリスについで2番目に高い税率となっている。日本は他国よりも平等意識が強く、それが税制に表れていると言えるかもしれない。そもそも高額所得者が少ないので、どのみち超富裕層から徴収できる税金の総額はそう大きくはないだろう。

中流への課税が少ない国、日本

もう一つ気が付くことは、年収2000万以下の家庭では、税率がどの国よりも低いことだ。

これには問題がある。

なぜなら、バブルが崩壊してデフレが続いた20年間に、日本では非正規労働者の割合が増え、低所得者層と中所得者層の間の乖離が大きくなってしまった。

他の国では、中所得者層からしっかり税金をとって、低所得者層に再分配しているのに、日本はそこの再分配が行なわれていない。

結果として、日本は、低所得者層への給付が非常に少ない国となっている。

貧困運動をしている方々は、よく注意すべきではないかと思う。

金持ちから金を取れ、法人から金を取れ、とスローガンをかかげたとしても、もうすでに日本は超大金持ちと法人からは他国よりもたくさん金を取っている。

事実をありのままに見れば、もう少し、中流層が負担することを考えるべきだろう。


経済成長による全体の底上げには頼れるか?

もう一つの可能性は、20年間のデフレをせっかく脱却しようというところで、経済成長の効果で、底上げを期待できるかも知れない。

ここで面白いデータをご紹介。(↓のリンクをクリック)
Income Distribution 1970-2000

最初、「World」にだけチェックが入っていると思うので、これは外して、「Japan」「USA」にチェックを入れて、プレイボタンを押してみると、日本の所得が、低所得者側は底上げされながら移動し、高所得者側は伸びたり縮んだりするのがわかる。USAは比較にちょうどよいので一緒にチェックしてもらったが、別に中国を選んだり、ブラジルを選んで見てもいい。

これはあくまで参考ではあるが、所得の底上げのイメージはかなりつかみやすいと思う。

低所得者側の底上げは、デフレに入った後、止まっているはずだが、それをふたたび引き起こすなら、たとえ高所得者側がもっと伸びて、格差が拡がっても、気にすることはなく、中間層の負担もこのままでもいい、という可能性があるのではないか。

もうしばらく様子を見てもいいかもしれない。特に中間層への増税は、心理的萎縮をもたらして、せっかくのデフレ脱却を台無しにする心配がある。

しかし、現実にいま、たとえば子どもの貧困が、再分配によって救済されない状況が存在するのだから、もう少し中間層が、所得税において負担をしてもいいのではないか、とも考えられる。

その可能性を、考え始めるべきだろう。


スローガンは「反富裕」ではないはずだ

こうしたことを考えれば、雨宮処凛氏は「反富裕」を唱えている場合ではない。
超富裕層をターゲットにしてもほとんど意味がない。
かといって、中流を敵に回すということでもない。
敵に回せば、足の引っ張り合いということにもなりかねないが、本当にやりたいことは中流の果実を下流とシェアすることである。

中流の人は、いつか万が一、不運に遭って自分が低所得者になったときに、きちんと保障してもらえる社会の方が、安心して暮らせるだろう。

そして、低所得者と中所得者の格差があまり大きいと、分断が起き、片方の恨みがつのったり、社会情勢が不安になるだろう。そんな社会で、中流の人も暮らしたくはないはずだ。そのためには、再分配に日本よりも成功している欧州を参考にしてもいいのではないか。

幸いいま日本は、デフレから脱却しようとしている。リフレになり賃金が上がる、もしくは、労働分配率が下がって、結果として労働者が長時間労働をしなくてもよい雰囲気になっていく、その中では、中流への課税はより心理的な負担感が軽い可能性がある。

したがってリフレの継続も重要である。

これらを考えるならば、反貧困運動の人たちは、しっかりした経済成長と、雇用の増加と、そして中流層への所得課税の強化というところを訴えていくべきだろう。

もう一つ言えば、配偶者控除の廃止を非難している場合でもない。
女性の社会進出を促進などといったたわけた理由(※)など考慮に値しないが、公平な課税制度を考えれば、配偶者控除を廃止し、低所得者や子育て世帯への給付へと切り替えるべきだろう。

(※補足)配偶者控除を廃止・圧縮すれば女性の活用が進む、とされているが、これに対してはたとえば以下のような反論があり、わたしも同感である。
  • 話はそんなに単純ではあるまい。女性の社会進出を阻んでいる大きな要因は、保育所の待機児童や介護施設の定員不足に代表される「子どもを預けられず、介護も女性任せ」で、とても安心して働きには出られない社会構造にある(東京新聞より

(追記2)
このエントリは「KYの雑記ブログ」の中にある「再分配のための基礎的指標」に着想を得て書かれています。そちらもどうぞご参照ください。


テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済

経済成長と再分配

今日、ツイッターで赤木智弘さんのこんなツイートを見ました。

よって、現状に対する最適解は「経済成長をさせながら、社会保障を用いて労働に就けない人に優先的に再分配する」ということなのだが、これを全く理解できない人が多いのが、今の日本のお寒い現状だ。「労働」に対する妄想が強すぎて、話にならない。
https://twitter.com/T_akagi/status/426914010412232704



現状に対する最適解は「経済成長をさせながら、社会保障を用いて労働に就けない人に優先的に再分配する」ということなのだ

この部分の主張には、わたしもまったく賛成です。

赤木さんといえば、「論座」2007年1月号に『「丸山真男をひっぱたきたい――31歳フリーター。希望は、戦争』という文章を書いて、大勢のサヨク論者から批判をくらった人。

当時の文章はこちらで公開されています。
「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。
けっきょく、「自己責任」 ですか 続「『丸山眞男』を ひっぱたきたい」「応答」を読んで──


赤木氏は、高度経済成長からバブルにいたる富の蓄積によって、十分に既得権益層となっている高齢者や正社員を批判します。それは批判される側から見れば、ただの愚痴だといって非難することができるかもしれません。

オールド左翼たちが、どんな風に赤木氏に応答しているかは、『若者を見殺しにする国 (朝日文庫)』も合わせてぜひ読むべきでしょう。

鎌田慧「クビが飛んでも動いてみせる、それがフリーターに与えられた自由ではないですか」

佐高信「『何も持っていない』私というが、いのちは持っているのである」

鶴見俊輔「筆者は15歳のとき…なぜ、パソコンその他の情報技術を習熟させようと覚悟を決め、それに打ち込まなかったのか。そうしていれば10年後、25、26歳のときには、情報技術を自在に操ることができたでしょう。」



時代の幸運と自らの才能の幸運によって安定した地位を得た者たちが、どれほど自分たちを幸運と思わずに済んでいるかがよくわかります。

そして、一生安定した職を望めなさそうな若者が、経済成長が見込めないと思いこまされた挙句、どのぐらい閉塞感に苦しめられているか、オールド左翼側は想像すらできないようです。

これは、ソロスが「第一次世界大戦後のフランスのようだ」と批判しているメルケルの経済政策が、経済的に困窮している周辺国に振りまく閉塞感と同じものです。

赤木氏は『若者を見殺しにする国(朝日文庫)』の中で、こうした貧困層に対して社会はどうすべきかについて検討を加えています。経済理論に基づいた考察ではありませんが、金が貧困者に回ることがまず重要であること、十分な雇用が重要であることを主張します。

そして今日は、現状に対する最適解が「経済成長をさせながら、社会保障を用いて労働に就けない人に優先的に再分配する」だと言っているのです。

まったく、リフレ派と同じ主張ではありませんか。

経済学者ではないのだから、厳密に見ればとんちんかんなことも言っているのかも知れませんが、方向性としてはリフレ派と同じ方を向いているでしょう。

しかし、彼のような考え・立場の人々と、リフレ派が融合するには、わたしからみると、リフレ派には再分配への積極的なコミットメントが少なすぎるように思えます。

もちろんリフレと再分配は、違うものです。リフレを志向する人がすべて、再分配を志向するわけではない。

その上で、わたしはリフレと再分配をともに主張します。というか、再分配のためにこそ、リフレが必要だと思っています。すべての人に健康で文化的な暮らしが行き渡るためには、おカネが潤滑油のように社会を巡る必要があります。

とはいえ、いったいどんな具体的な政策があるのか、それをどう提案すべきなのか、わたしにはまだそこまで考えられていないのですが…

リフレ派の人たちが考えているものの中に、それなりに再分配に寄与するものがあります。
たとえば歳入庁の創設や、納税者番号制度は、公平な再分配制度の基礎として寄与するでしょう。

それでもまだまだ、再分配へのコミットメントは弱いように思えます。

たとえば、良くリフレ派に見られる言い方に「経済のパイを大きくすれば、弱者への配慮が自然となされる」というものがあります。そういった配慮は自然になされるものではないので、必要を感じる人が明示的に制度をつくっていかなければなりません。

ツイッターでねずみ王様がつぎのようにつぶやいていました。

福祉国家以前でも、労働不能な無能力者(=子供)であることが視覚的に明白であれば、救済の対象にはなりました。が、それを社会の構成員と呼べるかどうかが問題になります。
https://twitter.com/yeuxqui/status/425208721153593344

労働可能であるにもかかわらず労働していない者(=失業者)が、自分が無能で、半人前の人間でしかないかということを視覚的にアピールせずとも、社会保険の対象となるという第二次大戦後に成立したこの仕組みが、どれほど異様な変化だったかを、カステルは説得的に示していると思う。
https://twitter.com/yeuxqui/status/425211475813085184



社会がどのような対象を救済すべきか、概念は大きく変わってきています。いままでは努力や窮状を人に認められなければ救済されなかった。しだいにそうではなくなってきています。

救済対象を、過去の常識にとらわれず拡大して考えられる人が、明示的に制度をつくっていかなければ、格差の拡大による社会の不安定化や、もしくは将来的に起こる雇用の減少に対応できなくなるでしょう。

ですから、経済成長と再分配の議論で、再分配の話があまりされない場合に、特に左派よりの人が不安を感じるのは、極めて当たり前のことなのです。「まずは経済成長だ」という話はもっともではあるのですが、そちらが強調されることによって不安を感じる人を責めるわけにもいかないと思います。

今後、リフレ論と合わせて、再分配政策を具体的に強く主張する論者が、どんどん出てくるように願います。

安倍政権と雇用と賃金、アンチ安倍勢力と雇用と賃金

最近、「労働分配率の低下が問題」というフレーズを見かけ、調べてみると、労働分配率にはデータの取り方でいくつものグラフがあることがわかりました。

たとえば、「労働分配率の低下を止められるか」(PDF)と題されたみずほ総研のレポートでは、OECDのこんなグラフが紹介されています。
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一方で、「賃上げと内部留保を巡る混乱―賃上げはストックではなくフローから」(PDF)と題された日本リサーチ総研のレポートでは、こんなグラフが。
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どっちのグラフを見ながら考えるかで、ものの見方が全然変わってしまいます。

いくつかグーグル検索した中でもっとも興味を惹かれたのは野田正彦・阿部正浩「労働分配率、賃金低下」(PDF)というレポートです。

労働分配率の測定については…複数の方法がある。そして、それぞれの測定法で計測された労働分配率の変動はそれぞれに異なっている面がある。ある測定方法では分配率が大きく変動しているように見えるが、別の測定方法ではあまり変動していないように見える。したがって、「適切な」測定を行わなければ、実証的には、「適切な」労働分配率の水準を見出すことは困難であり、「分配の水準」の議論をむやみに混乱させることになってしまう。


まさにまさに、今まさに、「むやみに混乱」しているように見えますよ。

さてこのレポートでは、分析の結果、次のようなまとめがされています。

そこで本稿では、上場企業のパネルデータを用いて、近年になって賃金の上昇を阻害してきた要因について実証分析を行った。われわれの結果は、佐々木・米澤[2000]が見出している労働分配率に対するコーポレート・ガバナンスの影響と整合的である。すなわち、金融機関と密接な関係をもつ旧来型の日本型ガバナンスがなされている企業では賃金が相対的に高く、逆に、外国人株主の影響が強い企業ほど、賃金が低くなることを示している。


その他、以前は金融機関による持ち株が賃金に対してプラスだったが、1997年の危機以降は持ち合い解消がされて効果がなくなったこと、株式持ち合いも同様に、以前は賃金に対してプラスだったが今では効果が限定されていること、相場の上昇が賃金を上昇させることなどが述べられています。

少し興味深いのは、成果主義の導入と賃金との関連は必ずしも見られなかったことです。また、賃金カットにいち早く手をつけた企業が、その後収益性が改善して、従業員の賃金上昇につながったことが、データとしては見られるということです。

以上を踏まえた上で、安倍政権の国際展開戦略「積極的な世界市場展開と、対内直接投資拡大等を通じ、世界のヒト、モノ、お金を日本に惹きつけ、世界の経済成長を取り込みます」を見ると、一般の労働者にとっては手放しで喜べない戦略だと考えられます。

海外からの投資促進によって、国内企業の外国人株主が増えるなら、雇用者の賃金は下がるだろう、と予想されます。

それに、安倍政権は雇用流動化をうたっています。新たな成長戦略では、「雇用維持型から労働移動支援型への転換」と言っています。解雇自由化を促進するなら、雇用者の立場は弱くなるということが予想されます。

また、パソナの会長竹中平蔵氏が、産業競争力会議で発言力を持っているのも気になります。景気回復局面で、企業は人材が必要になりますが、消費税増税によって経営が圧迫される企業では、人件費にあたらず税額控除の対象になる派遣社員の割合はますます増えることになるでしょう。こうした派遣市場の拡大は、竹中氏の利益となり、ますます発言力を増します。そして一般の労働者の暮らしはなかなか良くならないということになります。

その一方、企業活動が活発化し、雇用が増える効果のある金融緩和政策(アベノミクスの第一の矢)の導入では、少なくとも雇用者を増やす効果はあるでしょう。経済が停滞し、テクノロジーが発達した社会では、国家が貨幣を供給することで、雇用を増やすことが望ましい政策です。

マイナス、マイナス、プラス、といった様相を呈する安倍政権であります。

しかし共産党やら社民党を見るともっと悲惨です。

政府が金融政策に理解がないなら、企業の投資活動は活発になりません。設備投資がなされなければ、雇用は増えません。企業が収益を見込めないならば、賃金は上がらないでしょう。たとえ外国人投資家が増えなくても、解雇自由化が促進されなくても、結局、賃金は上がらないでしょう。

マイナス、マイナス、マイナスです。

あり得ないことではありますが、後者が政権についたら、経済成長が蔑視され、貧しい人々の暮らしはまったく改善することができず、なけなしの資源をゼロサム的に奪い合う社会が出現してしまいます。これでは、いくら憲法の理念を説いても、人権を主張しても、人々はそういったことを顧みる余裕がなくなります。

わたしは、一般労働者や低所得者の健康で文化的な生活の保障を重視しながら、経済成長をも促進する政党を望みます。経済成長こそが、社会福祉の原資なのです。

これから日本に現れるべきは、国家が経済に与えるマクロ効果を理解し積極的な金融政策を主張しつつ、憲法や人権の理念を理解し教育を重視する政党です。現在の日本に、こうした政党は、ただの一つも存在していません。数年以内に登場することを切に望みます。

パソナの取締役会長竹中平蔵氏は消費税増税に反対の賛成なのだ

竹中平蔵氏は、もともと今回の消費税増税には反対だったが、決まったものは仕方がないとして、最後は賛成に回るという、信じられないぐらい日和見な意見転換をした方ですが、その竹中氏が消費税増税について語る中で、次のような発言をしており、ちょっと驚いてしまいました。

竹中平蔵氏消費増税を語る 消費税あげたって何もよくならない でも賛成

(社会保障に回るのは)1%なんですよ。では1%分社会保障が良くなるかっていったら、そのうちの0.6%は、実は低所得者対策ですから、ふつうの人には回ってこないんです。


社会保障制度には、低所得者対策の他に「年金」「医療」といったものが含まれ、これは低所得者に限らず、基本的にすべての人が利用するものです。竹中氏は、今回の増税では、この充実までは手が回らない、と言っているのでしょう。

つまり、竹中氏が以前増税反対していた理由の一つは「0.6%は、実は低所得者対策」「ふつうの人には回ってこない」だと考えられます。(1月18日注:この文章変でした。消し消し)

ところでわたしは、現在の経済状況での増税には一貫して反対の立場です(将来的にリフレが確実となってから増税すべきと考えています)。竹中氏の言うように「決まってしまったのだから仕方がない」とはまったく思いません。今からでも止めればいい。

そして増税に反対ですが、だからといって低所得者対策をしないでいいとは考えません。少し考えてみていただきたいのですが、「増税したら低所得者対策できる」という考え方は、「増税しないと低所得者対策できない」というゼロサム的考え方につながります。しかし現在の日本で、低所得者対策は、ゼロサム問題ではありません。

本当に言うべきことは、「貧困者対策はする、しかしいま増税はしない」です。まずはリフレが安定するまで、債務を無暗に恐れず、予算を割り当てていくことがとても重要です。

仮に、1万歩譲って、竹中氏がいろいろ経済に無理解なために「増税はしかたない」と言ったことをよしとしましょう。今後、もう少し勉強していただいて(本当は竹中氏はわかっているのでしょうけどね…)、景気が悪い時には増税しないという風に最後まで意見を通せるようになればよしです。

しかし、デフレから脱却できておらず、雇用が不足しており、非正規が増え続け、雇用条件の悪化が問題にされ、若者の貧困が問題になっているときに、「(低所得ではない)ふつうの人に効果がないことは意味がない」とは到底言えません。政策提言する立場の人が言うべきことではない。

そもそもですね、パソナという人材派遣会社の取締役会長に消費税増税について聞くことが間違っています。なぜか?それはこちらを見ればわかります。

消費税の税率が上がると派遣労働者が増える?

「経営者にとって一番手っ取り早い節税方法は、正規労働者を減らし、その分を派遣や外注でまかなうことです。これらは控除対象になりますから、収める税額が減るのです」
(『マンガ解説「消費税増税」どくまんじゅうにご用心!!』連合通信社発行)

派遣労働者の賃金は人件費ではなく、物件費扱いになるというのがミソ。派遣労働というサービスを購入したとして、税額控除の対象になるのです


このように、消費税を増税すれば人材派遣業の市場が広がると予想される場合、もしも人材派遣会社の取締役会長が、消費税増税に反対するとしたら、その人はその会社の取締役としてきちんと役目を果たしていないと言えるでしょう。

竹中氏は人材派遣会社の取締役会長として、むしろ、消費税増税賛成でなければおかしいし、おそらく本音はそうなのでしょう。しかし最初のうち、反対を表明していました。それは、最終的には消費税増税が予定通り行われるだろうということが見えていたからだ、という可能性も考えられます。多少反対を言っても大丈夫だろうと踏んだから、消費税増税反対派の人気を取り付けるべく、当初自分の立場と矛盾する意見を言ったのだという疑いを抱かざるを得ません。

さまざまな立場の人が、自分が属する業界の利害を代表して政策提言するのは良いでしょう。しかしそれをどう判断するかについては、よくよく注意する必要があります。

人材派遣業から利益を得て、搾取されない立場の人は、竹中氏についていけば良いでしょう。しかしそうでない人は、竹中氏を信用しついていくべきか、十分考えなければならないと思います。
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Author:アリス
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